千曲万来余話その329「バッハ作品番号1050、ブランデンブルグ協奏曲5番ニ長調・・・」

 三月二十八日の新月夜を越して、モノーラル針による再生を愉しんでいる。極め付きは、フルーティスト、マルセル・モイーズ。ヴァイオリニスト、アドルフ・ブッシュ。ピアニスト、ルドルフ・ゼルキンという独奏者たち、ええっ!ピ、ピアニスト!!通奏低音は、常識によるとハープシコード、イタリア語ではチェンバロというものであるのに、ここで、1935年10月録音のSP録音では、ピアノで演奏されている。当時、というか二十世紀初頭では、バッハの作品においてチェンバロのパートをパイプオルガンや、ピアノで演奏されることは、そのようであったらしい。作曲家マーラーは、管弦楽組曲の通奏低音をパイプオルガンで担当させて編曲していたものである。だから、弦楽合奏の音響は、反動として現代は、ピリオド時代楽器使用といって、かなり、室内楽的に小規模思考に向かっている。今年の一月、モダン楽器使用した指揮者マックス・ポンマーは、コントラバス一丁による弦楽アンサンブルで大ホール演奏録音を挙行している。  
 SP録音でもLP復刻モノーラル録音は、容易に鑑賞することが可能である。    
 ここでの主役は、独奏者たちなのは無論だが、中でも、マルセル・モイーズのフルートによる音楽は群を抜いている。フルートの神様、神ゴッドとは、全能の神、創造主、三位一体の神、姿は三様でも一体としての存在を指しているのだが、盤友人にとって神とは、祖先神の感覚で父なる神、そして母体を通して連なる祖先が神様に思われるのだが、フルートの神様として、マルセル・モイーズはその存在である。彼は、1889年5月17日仏サン・タムール生1984年11月1日米バ―モント州ブラトルボロ没。1903年パリ音楽院に入学、ゴーベールにフルートを習っている。1906年に卒業、その頃からパリ音楽院管弦楽団首席を務めていたといわれている。1932年から1949年にかけて、パリ音楽院主任教授を務めている。その高弟にランパル、ニコレ、ゴールウエイ・・・名手たちがいる。1939年、レジオン・ドヌール勲章を受章している。1973、1977年来日して、以前、吉田雅夫は独学ののち、モイーズに4年ほど師事しているという。吉田氏の本によると、楽器の材質と、ピッチの関係が詳述されている。わけても、興味深い指摘は、アンドレ・ジョネ先生によるレッスンで、作曲家タファネルの、アンダンテ・パストラール田園曲で、嬰シャープ・ラと、変フラット・シの説明する部分がある。平均律での全音を、九個にわけて、コンマという概念を導入している。難しいことを簡単に言うと、完全五度を五回繰り返して上昇させて十二音、Cを五度積み重ねて十二回のとき、Hisは、Cより高くなるという・・・バッハ後期の平均律、バッハ前期までの中全音律ミーントーン、さらに純正律=自然和声的音律  
 純正調において、嬰音シャープは、一音上の変音フラットより高めに吹奏するのが、その演奏手法である。わかりにくいが、ト長調でファの嬰音シャープは、平均律の黒鍵ファより高めに演奏すると、終止感が伴うということである。平均律はそこのところ表現不可能な世界である。  
 モイーズの演奏は、聴くとすぐに彼の演奏だと知れるくらい、入魂の吹奏であり、フレーズが、普通の人と倍くらいの違いが感じられる。コンマが読点だとすると、テンや、句点マルの価値が表現されている。すなわち、モイーズの演奏は、文章を格調高く演奏されるごとく、その集中力、精神力のポテンシャルは、神業というほか、ない!!!