千曲万来余話その334「ブルックナー交響曲第七番ホ長調、原典版、ハンス・ロスバウト指揮」

1883年9月作曲完成、翌年、ライプツィッヒにて、アルトゥール・ニキッシュ初演指揮、その後、ヘルマン・レヴィ指揮ミュンヘンにて演奏、バイエルン国王ルートヴィヒ2世に献呈されている。ハース版とは、ニキッシュ、レヴィらが楽譜に加筆、それを削除したもので、ノヴァーク版はそうした加筆を作曲者の意図にも添ったものであるとの立場から、ティンパニーや、トライアングル、さらにシンバルなど打楽器の使用を加えた版による。作品は第二楽章に通常2管編成の上、ワーグナー・チューバが4本、バス・チューバ1本が加えられた大編成管弦楽。 
  ハンス・ロスバウト1895・7/22~1962・12/29、P・ブーレーズの作品、ル・マルトー・サン・メートル初演指揮者としても知られる。同時代音楽紹介者としても有名で、南西ドイツ放送管弦楽団バーデンバーデンを指揮したブルックナー、交響曲第七番ホ長調原典版がステレオで録音されている。それより以後、1964年録音のカール・シューリヒト指揮ハーグ・フィルハーモニー王立管弦楽団のものと同じく、ヴァイオリン両翼配置による演奏で後者のコントラバス上手配置に対し、ロスバウトは下手配置による。    
 曲の冒頭、チェロの歌が左手側から流れ出して、右手側から第二ヴァイオリンがトレモロを演奏している希少な音源である。第三楽章、舞台下手で第一ヴァイオリンの主旋律に対し上手側で第二ヴァイオリンが合いの手の演奏を展開しているのが確認される。ステレオ録音の主流は、ヴァイオリンを舞台上で指揮者の左手側に畳んでいるが、そのことにより、演奏上の合奏リスク、並びに指揮者の責任は回避されて、現代では多数派を確立、ただし両翼配置は、オットー・クレンペラーを筆頭に継承されていて、コンパクト・ディスクでは、パーヴォ・ヤールヴィが2006年頃からブルックナー交響曲、ノヴァーク版によりフランクフルト放送交響楽団で録音活動を開始している。   この種の録音で聞こえ方の問題、特に舞台両袖に展開するヴァイオリンの音楽は、対話、掛け合いが重要な効果であろう。コントラバス、チェロの音響が主旋律の支えになっている音楽は、男性的であるのが特色、リズムの推進力が截然としている。  
 それが何故、二十世紀後半、タブーとれていたのか?というと、アンサンブルのハードルが高いということに尽きる。ところが、最近はというか、1984年のジェイムズ・レヴァイン、モーツァルト交響曲全集録音プロジェクトを端緒として、実力派指揮者たちが主導して、Vn両翼配置は録音され出し注目を集め始められている。そんな中で、ロスバウト指揮の録音盤など、ステレオ初期の録音として価値は高い。オーケストラ合奏能力の向上とあいまって、ヴァイオリンを畳む主流派録音の限界、名演奏は出尽くした感があり、新しいオーケストラ音楽として注目されているのが現在であろう。       
 ヘルベルト・ブロムシュテット指揮ライプツィッヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団は、今年11月札幌に再登場する予定もあり、楽しみでもある。ダニエル・バレンボイム、クリスティアン・ティーレマンなどの指揮者たちによる活動も、目が離せない。時代の新しい潮流として、二十一世紀の展開がすこぶる興味深いものがある。楽器配置問題は、指揮者の主導という側面から鑑賞者の受容、聴き方の方向性として、より高い多様性が求められているといえるのであろう。