千曲万来余話その365「八月、無人島に持っていくレコードの一枚・・・」

ニュースでは最高気温が37度を超えるなど、連日の猛暑を伝えている。 
 お盆を迎えて交通渋滞の予報すら伝えられるこの頃、いかにもつらい毎日、反面、家族の再会など明るい話題にかかない夏休み時でもある。そんな中、お盆に考えてみた。  
 無人島に持っていく一枚のレコード、確か、グレン・グールドはシベリウス交響曲第五番、カラヤン指揮するベルリン・フィルを挙げていたのを記憶している。だいたい、無人島でレコードを聴けるかどうか疑問ではあるのだが、ソーラーパネル発電の発達など、今や、不可能なことではないのだろう。それこそ無粋な話で、無人島でレコードを聴くとしたら?というまでである。そこで、お盆を迎えた八月での一枚はハンス・シュミット=イッセルシュテット指揮した北ドイツ放送交響楽団ハンブルク、1968年10月28日ライヴ録音、ブルックナー交響曲第七番にしようと思う。 
 ある知人など、開始の曲想は旅行に出るために乗り込んで飛行機が、離陸する時の音楽にふさわしいと語っていたことがある。ホ長調、ハース版使用とある。ノヴァーク版と違うのはクライマックスの構築で使用する打楽器が一部異なり原典版に近いといわれるもの。  
 第二楽章アダージオ、とても荘厳に、そしてとてもゆっくりと、嬰ハ短調4/4拍子  
 ここで、音楽は悲しみを湛えた葬送の音楽ともいうべき逝ける人を追悼するものになっている。シューベルトは尊敬したベートーヴェンを追慕して、即興曲作品142をものしていると考えられるのだが、ブルックナーはこれを作曲当時、ワーグナーの訃報を受けとっていた。ワーグナーチューバという吹奏低音楽器のアンサンブルをお仕舞いに付け加えて、大編成オーケストラ曲をさらに拡大する後期ロマン派の特色をいかんなく発揮している。二十分超える楽章のクライマックスに悲痛な楽想を展開して、追悼の音楽を完成している。  
 1945年10月、シュミット=イッセルシュテット氏が45歳で新しいオーケストラ、NDR交響楽団ハンブルクを組織して最初のコンサートを開催、彼は戦後、新しい時代をきり拓く期待された指揮者であった。紹介された写真によると、弦楽器配置では、ヴァイオリンとチェロを両翼に展開するタイプ、二十世紀主流となった第一と第二ヴァイオリンを束ねたもの。これは、戦前のドイツ音楽を封印したもので、歴史的展開として理解できるもので、それがステレオ・ライヴ録音としてLPレコードがリリースされた。コピーライト2017年とある。販売元、株・キングインターナショナル。演奏の特色は、輝かしくなおかつ重厚な弦楽器の音色、軽快なブラスアンサンブルの演奏・・・
 これは、指揮者と管弦楽団が一体となった記録として貴重、稀有な一枚である。当然の結果というより、苦難、二十年余りの歴史を克服した勝利のレコードといえるだろう。1967年1月7日には、先達の指揮者カール・シューリヒトの訃報がある。直接の関連性を証明するものはもちろん無いのだが、86歳の天寿を全うした指揮者へ追悼する演奏として、その想いはひしひしと伝わってくる記録にほかならない。お盆、無人島で聴く一枚、極上のレコードといわずして、憚らないものである。オイロダインを聞いてみたい、果たさずして初盆を迎えた同い年のFさんの無念を思う・・・・・