千曲万来余話その371「ギターリサイタル、オーディオ的聴き方の試み」

人はよく、音楽は生が良いよねと話す。盤友人にとって、つまらない音楽を聴かされるくらいなら、スピーカーに対面してLPレコードを再生している時間のほうが、愉快である。 
 それは、音楽ソースにもよるわけだが、名演奏は、名録音に限らず、幅は広いといえるだろう。
 グランドピアノは、意外と歴史が新しくて、ベートーヴェンの中期、ソナタ第21番ハ長調作品53 ワルトシュタイン、作曲されたのは、1804年でピアノ製作者から要請を受けている。音域は拡大されて現代のものに近く、楽器は88鍵が標準で、最低音27,50ヘルツでAラの音だ。中央音域のラは440ヘルツで、最高音5点Cハは、4186,01ヘルツ。オーケストラの実音で、1点ラは442ヘルツを標準としていて、チューニングはオーボエが基本になっている。ちなみに、赤ちゃんの泣き声というのが440ヘルツ周辺といわれていて、正確には、女声低音アルトの音域にあたり、男声は220ヘルツaラの音周辺に相当する。オイロダインで、500ヘルツカットというのは、ウーファーが再生する音域に相当する。なお、コントラバスからピッコロまでがオーケストラの音域だとすると、グランドピアノの方が、それは広いといえる。  
 ギターは、小さなオーケストラ、といわれていて、古代のキターラに起源をもつ。図像資料としては13世紀にまでさかのぼり、16世紀のレパートリーは、バロック・リュートに準ずる。18-19世紀には、ソル、ジュリアーニ、タレガなど作曲家の名前が見える。20世紀には、セゴビア、イエペス、ブリームなど、名演奏家のビッグネイムが連なる。
 2017年10月09日、江別えぽあホールに、英国人奏者デイヴィッド・ラッセルが登場する。えべつ楽友協会が招へいして企画され、スカルラッティ、タレガなどの作品がラインナップ。翌日には、マスタークラスが実施されて、70名ほどの収容、リハーサル室で行われる。えぽあホールは20年前に創建されていて、443席の中ホール。パンフレットには、クラシックギター界の最高峰、待望の北海道初公演実現とある。
 オーディオ・ファンにとって、実際のリサイタルを経験せずして、スピーカーを再生することは、ナンセンス、それは、登山を経験せずして、風景写真を論ずるに相当する。運動を経験して初めて、登山の愉しみを経験するのであって、スピーカーを聴くことは音楽のリサイタルを経験せずして、音楽を語れないのと同じことである。
 SPスタンダード・プレイの録音は、エンリコ・カルーソーの名演奏を記録することに、出発点があったのは象徴的といえるだろう。それは、声の記録のみではあらず、音楽の記録であったことを認識しなければ片手落ち、オーディオの本道とはいえないのと同じことである。
 舞台、ステージを前にしてギター奏者の音楽を聴くことは、そのわくわく感こそ、貴重なのである。 それが、原点であって、音楽鑑賞経験の上で、スピーカーの再生に集中することこそオーディオの醍醐味。客席に居て、ホールの空間を自覚し、ステージの演奏に耳を傾ける経験、それこそがオーディオの目的、えぽあホールでのリサイタルは、今から待ち遠しい。北海道のギターファンのみならず、オーディオファンを自認する全国の音楽ファンに、このギターリサイタル、絶好の機会となることであろうことを盤友人は、お薦めする次第である。