千曲万来余話その354「J・テイト指揮、シューベルト交響曲第九番グレート」

先日、知人から訃報が届いた。6月2日、ジェフリー・テイト1943年4月23日英国出身74歳。 彼はモーツァルト指揮者として知られクレンペラーの再来とまで称されていた。1979年本格的なデビュー以来、イギリス室内管弦楽団初代首席指揮者就任1985~2000というキャリアが示すように楽員との絶大な信頼関係を築いた古典派をレパートリーの中心に据えた芸風で、内田光子女史とのモーツァルト、ピアノ協奏曲集が特色の盤歴である。         
 LPレコード末期1986・2・26、3・2録音ドレスデン・シュターツカペレとシューベルトの交響曲グレートD944は、一際精彩を放ったディスク。プロデューサーはデイヴィド・グローブスとウェーグナー、録音技師クラウス・ストリューベン、EМI盤。  開始早々、ペーター・ダム氏によるホルン独奏が右チャンネルから、アンダンテという歩くようなテンポで朗々と展開する。このテンポ感は、第2楽章アンダンテ、第3楽章スケルツォ、第4楽章アレグロ・ヴィヴァーチェに至るまで、安定感ある設定を感じさせるものになっている。ヴィヴァーチェというのは、急速にプレストと異なり、生き生きとしたテンポのことである。
 その演奏のピアノ弱奏部分で、弦楽器の定位が印象的に録音されている。
 第一と、第二ヴァイオリンに左右の対比があり、左チャンネルのコントラバス、チェロのヴォリュウム感など豊かである。チェロとアルトが中央に設定されていて、右チャンネルでは第二ヴァイオリンが定位している。ホルンの配置が右チャンネルというのは、古典配置して理想的である。なぜなら、コントラバスが左チャンネルに存在することによるから。ダム氏の豊かな音楽性とあいまって、ファゴット、クラリネット、そしてフルート、オーボエなど管楽器の合奏アンサンブルが絶妙といえる。トランペット、トロンボーンの切れ味良い演奏も印象的である。
 第2楽章の弦楽アンサンブルがこれほど印象に残る演奏は稀である。安定感あるテンポ設定により一段と快い演奏に仕上がっていてこんなアンダンテは初めての経験だ。63分余りの演奏時間は第1、第3、第4楽章リピートありでのことにもよるが天国的長さを一気に聴き終えることになる。 
 現代配置から古典配置への潮流だが、このあたりから、大きくうねり始めている。1945年を境界として、ウィルヘルム・フルトヴェングラーは、古典配置から転換して、スタンダードとしての現代配置、第一と第二ヴァイオリンを指揮者左手側に束ねるものにして、アルトの奥にチェロを配置することになる。そのために、コントラバスは舞台上手配置。古典配置は左スピーカーにチェロやコントラバスが定位するために、第二ヴァイオリンは右スピーカーから聞こえてきて、その効果は作曲者の意図にかなったものといえよう。古典配置によるグレートのLPは、オットー・クレンペラー指揮フィルハーモニア管弦楽団や、ルドルフ・ケンペ指揮するミュンヘン・フィルハーモニー、ニコラウス・アーノンクール指揮、ベルリン・フィルハーモニーなど魅力的演奏のオンパレード。 だから、古典配置は曲によってという言葉も目にするのだがそれはそれで、古典配置が主流となる時代には、大して意味のないものであり時代の展開を待望するのは、盤友人だけなのであろうか?