千曲万来余話367「オイロダインで、ベルリン・フィル演奏最新LP交響曲全集」を聴く

  シーメンス社製フィールド型オイロダインと出会い、23年が経過した。ようやくシステムに見合うステレオ録音、ベートーヴェン交響曲全集を再生できた気がする。サイモン・ラトル指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団のレコードをキング・インターナショナルがリリース。弦楽器古典配置による2015年10月ライヴ録音。 
 それ以前は、タンノイ社製オートグラフ、モニター・ゴールドユニット入りオリジナル・エンクロージャーを使用していた。どこが違うのかというと、それは箱全体を鳴らす思想で、オイロダインは後面開放型で使用されていて、元々はシアタータイプ、ユニットから楽器の倍音を聴かせるという発想による。ステレオ録音によると、定位ローカリゼイション、楽器を拾い採るマイクロフォンでステージ上の位置感覚を、再生するという思想である。左スピーカー、中央、そして右スピーカーという音場感を醸成するから、作曲家のイメージする楽器配置を体感することになるのである。 
  ステレオ録音初期には、左チャンネルから高音域、そして右チャンネルへ低音域と展開するものが前提となり、そのようにオーケストラの楽器配置は設定され、そのように再生を目指していたのである。ところが時代は進み、1945年を境としてドイツ式古典配置はタブー視、忌避されて管弦楽の全体配置は解体され、その上で演奏が展開していて有体に言うと、左からヴァイオリン、右からはコントラバスという配置が前提とされてオーケストラ・シーンは展開していたのであるが、ここに来て、その封印は解かれたLPレコードが流通され出したのだ。それがベルリン・フィルによるB 氏交響曲全集。つまり、作曲家が前提とした楽器配置による音楽が再生される時代が到来したといえる。それこそ革命的なことなのである。 
 そのレコード全集から、4、5、6番を聴いた。第四番で音楽の開始、高音域弦楽器のピッチカートと同時、少し早くにコントラバスの低音域が立ち上がる、この瞬間にゾクゾクさせられてしまう。それは、左スピーカー、第一ヴァイオリンの奥に、バスが配置されているからこその効果である。その上で、右スピーカーでは、第二ヴァイオリン、アルト=ヴィオラの演奏が定位する。こう聞こえる前提でB氏は作曲に腕をふるい、演奏者はそれを提供するという図式が成り立ったのだ。
 木管楽器奏者たちは、みな、耳が良くて腕達者ぞろい、弦楽器奏者の音楽に合わせて吹奏し、フルートやクラリネットの合わせも音程がピタリで、バランスも最適、絶妙の演奏を披露している。 ティンパニーの刺激的なクレッシェンドを的確に再生するとあの音質は、ライナー・ゼーガース氏によるものなのか?という気になる。彼は、七月に札幌キタラホールに登場して、そのヨハン・シュトラウスを思わせる風貌を見せてくれていたのである。PMF国際教育音楽祭で、若者たちの中に混じり、ベルリオーズ、序曲海賊を暗譜で演奏していて、抜群の存在感を発揮していたものだった。レコードでは、第五交響曲もかくやと思わせているし、それはハイドン古典派音楽的構成感を表現し、オイロダインは、田園交響曲をロマン派の音楽的解釈、第二楽章で弦楽器が弱音器を使用した演奏を、そのように再生する。まさにベルリン・フィルハーモニーの演奏を得て、初めて体感する世界である。ベートーヴェン本来の楽器配置は採用され、再生されることになったというのは、極上、否、管楽器配置もそれを追求されることにより実現されるものなのであろう。