千曲盤来余話その75「ブルーチーズのような美味、モノーラル録音ピアノ音楽」

モノーラル録音レコードを聴くとき、カートリッジをステレオ仕様からモノーラル針に交換してその音の余りの変わり様に度肝を抜かれた経験がおありだろうか?
オルトフォンのCタイプ、フォノフィルム赤パッチ流れ文字付き針で再生して、その豊穣の音響に、いたく心を奪われている。
フランス女流ピアニスト、マルセル・メイエル。録音歴1925~1957年、ラモーや、ドメニコ・スカルラッティから、アルベニスや、ストラヴィンスキーに至る近、現代まで網羅している。
その中でも、ラモー、すなわちバロックと古典主義音楽の中間、十八世紀中葉に位置するロココ音楽を、ディスコ・フランセのレコードで聴く。旋律が装飾豊かであり、バッハや、ベートーヴェンのピアノ音楽に親しんできた耳には、かえって新鮮に聞こえる。
DFディスコ・フランセの録音技師は、アンドレ・シャルラン。
ピアノのために書かれたものではなくて、鍵盤楽器、フランス語でクラブサン、イタリア語でチェンバロのための音楽でありながら、古いタイプのスタインウエイというピアノで演奏されている。
レコード再生では、音量と音圧という似ていて非なる感覚が必要となる。
スピーカーを鳴らすとき、中位の音量でもって、音圧が感じられる二様が必要である。
再生の必要条件として、歪みが無いことがあげられる。しかし、それだけでは、十分ではない。基音のほかに、倍音ハーモニックスが豊かでなければならないのである。
余韻には、倍音と言って、振動音の整数倍の音が鳴っている聞こえが含まれている。
ドレミでいうとラの音の振動数は、約440ヘルツ、サイクルである。赤ちゃんの泣き声、オギャーオギャーというのが、そのあたりといわれていて、成人女性の話し声もそのあたりで、男性の話し声は、そのオクターブ下当たり、220ヘルツくらいである。倍音とはその整数倍の上の振動数のもので、ピアノ録音では、それが極めて、重要な音響である。
ヴァイオリンという楽器はソプラノにあたり、ヴィオラ=アルトは、テノール、バリトンという男声にあたるというとあたらずとも遠からずといえようか。
プロセスチーズがCDの音だとすると、さしずめ口当たり柔らかい薫りのブルーチース゛は、モノーラルLPレコードでピアノ録音、音盤ディスクの歓びに当たるだろうか?