千曲盤来余話その90「ヨハンナ・マルツィの輝かしい名演奏を聴く」

ヨハンナ・マルツィ1924.10.26ティミショアラ、ルーマニア生まれ~1979.8.13チューリヒ没の演奏した1956.5.6ミュンヘン、バイエルン放送局録音のLPレコードを聴いた。
彼女は、リスト音楽院でイェーネ・フバイに師事している。彼女の情熱的な個性は尊重され、共演者も1957年のカール・シューリヒトなど、恵まれた経歴を有している。
同年にニューヨーク・デビューを果たしている。
聴いたレコード曲は、ベートーヴェンのクロイツェル・ソナタ、イ長調作品47。共演はジャン・アントニエッティ。
彼女の演奏の特色は、力の入り具合にある。輝かしい愛器カルロ・ベルゴンツィを駆使して、粘りのあるフレーズを披露している。彼女の愛すべき音楽に勝るとも劣らないのが、J・アントニエッティの音楽。ピアノの音色は充実していて、豊かな響きを聴かせる。
スタインウエイというより、ベヒシュタインの音色を思わせる。このピアノに注意すると音色は、ピアニスト、ディヌ・リパッティの音色を思わせる。クレジットは未確認。
三楽章形式の音楽の第二楽章は変奏曲風に。心静かに、引き込まれていく。
チャーミングな香りを感じさせて、明るい印象を与える。
彼女は、政治的に批判にさらされるスキャンダルを経験しているとのこと。
芸術家は、時の政権との関係がなかなか難しいらしい。フルトヴェングラーもファシズムとの関係性を疑われていたことは、よく知られていたことである。彼女もその種類の経歴であった。音楽を耳にするとき、ファシズムとの関係は無縁である。
技巧も、ベートーヴェンの気高い音楽に相応しいものを披露している。政治と音楽は、その関係を切り放したい感じがする。演奏家の宿命であろう。消えない経歴ではある。
力強い音楽は、生きる喜びを分け与えてくれて、充実している。ありがたい。