千曲盤来余話その91「ヤーノシュ・シュタルケルによるバッハの無伴奏組曲」

ステレオ録音のLPレコードは、ステレオ・カートリッジで聴くことになる。
今まで、どうも左チャンネルが強く聞こえて気になっていた。
接続の仕方、左右のバランス、真空管の問題、アンプの両チャンネルの問題などなど、いろいろな可能性が考えられていた。
札幌音蔵より決定的なアドバイスを指摘された。プレーヤーEMT927の水平バランスではないか?とのことである。水準器でのチェックをしてみたら?というアドバイスだった。
盤友人は、さっそく試してみた。確かに、水泡は、右側に偏っていた。すなわち、レコードの溝の左チャンネル側が低くなっていて、右チャンネル側が上になっていたのである。
問題点は、すっきり、解決された。水平を獲得することによって、左右のバランス問題は納得がいった。
バッハの無伴奏チェロ組曲6曲LPレコード三枚物の、オリジナルは、プライス40数万円する。盤友人は復刻盤にしか手が届かない。四〇分の一でも、それなりの世界である。
オリジナルの世界はそのうちに、と夢見る世界ではある。クリケットレコードの棚に存在している。
その復刻盤一枚で、2ウエイのウーファーを充分に鳴らすことができる。
シュタルケルの録音は、非常に生々しくて、椅子の軋む音など、臨場感が充分である。
演奏自体も、緊張感が聴き手に伝わる感動が約束されている。みずみずしい楽器の音であり、レコード芸術が複製ではなくて、記録であることを堪能させてくれる。
シュタルケルの演奏するチェロの音楽は確かに新鮮に記録されているのであり、その再生は、リスナーの愉悦である。
オイロダインのウーファーはふかふか鳴ってくれて、胸のつかえが、するりと落ちたのである。