千曲盤来余話その105「指揮法の、タタキとシャクイ」

オーケストラという多数の演奏家を前に、指揮をするとき、そのタクトの振り方は、音楽と密接な関係を持っている。
手を伸ばして、さっと振り下ろして、同時に音が出てくるのではない。
演奏者が息を合わせて、あうんの呼吸で音が出てくる。
そのとき、指揮者は打点を示して、そのタイミングをはかることになる。それをタタキと言う。手で示した打点のあとで、音は出てくる。
あるときは、手を振り上げて寸時にとめて、音を引き出す。それを、シャクイという。
 ンタタタ、ターという音楽は、分解して説明すると、一旦振り上げてから、たたくことになる。シャクイとタタキの組み合わせだ。
延音フェルマータという記号があると、音を延ばしてから、止める指示が必要になる。
交響曲の第一楽章に、十カ所ほどのフェルマータが指示されると、指揮者は、それぞれに振り分けなければならない。
そのうえ、大事なことは、テンポの指示である。音楽が始められてからの速さが、演奏者と指揮者の間に共通していなければ、しっくり行かないことになる。
ここで、フェルマータの問題、2小節目、5小節目にあるのだけれども、5小節目の前の音がタイで同じ音であるのは、どのように、振るのが良いのか?
アルトゥール・トスカニーニの指揮姿を観ると、一小節余分な振りは無い。明快である。
すなわち、同じ音をタイでつないだフェルマータは、一小節分音が長いということではないということであるのだ。
リピートという繰り返しをして、小節数を数えると、ベートーヴェンの交響曲第五番は、全部で1794小節になる。この数字、作品1の草稿初演の西暦年と一致する。
第一楽章の389小節目に全休止が無いときに、成立する話なのである。
アルトゥール・ニキッシュは、1913年、そのようにSP録音を果たしている。