千曲盤来余話その124「アメリンク、シューベルトの歌曲リート」

ピアノ曲、ヴァイオリンや、チェロの独奏曲など、クラシックの音楽は意味の世界とは無縁である。いちいち考えて音楽を愉しむことはない。
聴く態度としては、良いか悪いか、面白いか、つまらないか、感性の世界だ。
ところが、シューベルトの歌曲など、詩の世界の理解がともなわないと、不十分である。
人の声の世界は、歌詞テクストという世界の理解をともなわないと、片手落ちなのである。だから、理性的理解がともなうと、悦びは、倍加するというものだ。
エリー・アメリンクというソプラノ歌手、1960年代からキャリアを重ねてステレオLPレコードの世界に記録を残している。オランダ、ロッテルダム出身の名歌手。
モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト、シューマン、ブラームス、ヴォルフ、フォーレ等多数の作品をレコードに残していて、多彩である。
その味わいは、凛としていて、名ソプラノ歌手の一人だ。
札幌の音楽界に、重要な三人の音楽家を挙げるとしたら、早坂文雄、荒谷正雄、そして宍戸悟郎が挙げられよう。宍戸悟郎先生は、合唱音楽のエキスパート、評論家谷口静司は、彼の札幌デビューをして、B.C.紀元前とA.D.紀元後の違いであると評していた。まさにピタリ!である。
宍戸先生は、福島出身で、1972年、フランス、修道院に留学研修経験がある。
女声コーラス大谷短期大学輪声会の指導者であり、札幌放送合唱団を指揮して、バッハのロ短調ミサ全曲演奏の経歴を持つ。彼の偉大な業績は、その音楽性にある。
週に二回のレッスンを課して、練習に、充実した音楽的経験を与えてくれるのだった。
女性達の指導が的確で、叱るのが上手だった。アンサンブルの精度が緻密になり、多数の聴衆を獲得していた。故指揮者岩城宏之をして、札放唱は歌心があるネと言わしめている。その宍戸悟郎は、好きなソプラノ歌手に、エリー・アメリンクの名を挙げていた。
名ピアニスト、ダルトン・ボールドウィンのサポートを得て、シューベルトの糸を紡ぐグレートヒェンなどは、絶品である。
今年は、宍戸悟郎先生の、初盆を迎える。