千曲盤来余話その140「ハインツ・ホリガー、独奏者として指揮者としても登場」

ホリガーは、天才オーボエ奏者としてのみならず、作曲家としても作品を発表している。彼の場合、楽器の演奏にとどまらず、曲を創作してしまうという、いってみれば、天才音楽家だ。このたび、オーケストラ指揮者としても活動を披露、マルチタレントとして、ひょうひょうとした演奏会だった。
1939年5月21日、スイス、ベルン州ランゲンタール生まれ。オーボエと作曲を身につけていて、楽器の方はエミール・カッサーニョに、作曲は、ハンガリーのシャンドール・ヴェレッシュに師事している。
2015年9月4日オーケストラ定期演奏会にて、バルトーク・ベラ作曲、管弦楽のための協奏曲を指揮した。
シャンドールはバルトークの弟子だから、ということは、ホリガーは、バルトークの孫弟子にあたる。いずれにしろ当夜のメインディッシュは、通称オケコンだったから、作曲者直伝の音楽会だったということになる。
ホリガーは、シャンドールのほかに、ピエール・ブーレーズのレッスンを1962年バーゼルで受けている。現代音楽の旗手である。楽器の演奏とオーケストラの指揮など、云うは易く、行うは難しの最たるもので、天才の演奏はとても、楽しいものだった。オーケストラ演奏者数は、フンメルの序奏、主題と変奏ヘ長調作品102で50人ほど。ステージでは、指揮と楽器の振り吹き。いってみれば、舞台の上でヤッシャ・ハイフェッツがヴァイオリンを披露しているみたいな、超絶技巧の最上パフォーマンスがおこなわれていて、オーケストラ・メンバーたちは、ひしひしとその天才ぶりに圧倒されているのが、客席にも伝わる。オーボエをびょうびょう飄々と鳴らしていて、びっしり身の詰まった果実を味わうごとくだ。技術上での不可能はなく、その上、楽しい音楽性を披露しているから、幸福感を体験したものだった。彼は、楽器をピエール・ピエルロにも師事しているという。
二曲目は、シューベルトのアンダンテ、ロ短調D936Aローランド・モーゼル編曲、つづけて、未完成交響曲。
だから3楽章の音楽に仕上がっていたことになる。未完成というニックネイムでも、二楽章で完成している。よく歌われる演奏で、素晴らしい出来だった。そして、バルトーク。コントラバス七挺の弦楽五部でハープ二台つき、三管編成のフルオーケストラ。彼の指揮は、しゃくいが主で、余りタタキをしていない。客席では、確認できなかったけれど、メンバーとアイコンタクトは充分のように感じられた。オーケストラに指示しきれずの場面もあってスリリングだった。彼は1970年2月札幌市民会館にも登場していて、聴衆としては二度目の仕合わせである。