千曲万来余話その167「ブラームス、ティークの美しきマゲローネによるロマンス作品33」

歌曲リートは、歌詩をもとにしたピアノと声による音楽。モーツァルトやベートーヴェンらの作品が源になっている。たとえはゲーテのすみれという詩をもとにしたモーツァルトの作曲により、音楽と詩の二つ世界を深く味わうことになる。ベートーヴェンには、アデライーデという名曲もある。
シューベルトには、美しき水車やの娘、冬の旅、白鳥の歌という三大歌曲集がある。白鳥の歌というのは、最期の歌というほどの意味で、一人だけの詩人によらず、複数の作詩者のものをひとまとめにしたものとなっている。
シューマンには、詩人の恋という屈指の名歌曲集がある。
ブラームスのものは、ティークの詩による、ナポリの王女、美しきマゲローネとプロヴァンス、ペーター伯爵とのいとも美しき恋物語ロマンスという15篇の歌曲がそれにあたる。ドイツ・ロマン派であるルートヴィヒ・ティークの16世紀民衆本をもとにした詩文。ブラームスの作曲は1861年に着手して1866年に完成を見ている。
ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウ1925・5・28ベルリン近郊~2012・5・18ミュンヘン近郊は、1947年ブラームス、ドイツ・レクイエムを代役で歌いデビューを果たしている。翌年、最初のリサイタルを開いた。彼のレコーディングは膨大、EMIやドイツ・グラモフォンを通じて前人未踏の記録が残された。
多数の作曲者による歌曲大全集のみならず、オペラ録音も多数。偉大な指揮者との共演も多数。
彼の共演者は、リート専門のジェラルド・ムーアにとどまらず、スヴィヤトスラフ・リヒテル、アルフレッド・ブレンデル、マウリツィオ・ポリーニ、マレイ・ペライアと多士済々のピアニストに及び録音しているところが異色。
特に、リヒテルとは、1965年オールドバラ音楽祭、1970年ザルツブルグ音楽祭の二度でブラームス、美しきマゲローネを共演。70年、EMIにそれをLP録音している。のちに、シューベルトや、フーゴー・ウォルフのリートで共演、録音。
ブラームス、美しきマゲローネの演奏は、以前、イェルク・デムスと共演、DGのモノーラルLP録音がある。
盤友人は、イェルク・デムスに演奏会後サインをそのレコード箱に求めたとき、遠くを見つめて、シェーンと一言発した。デムスの瞳の色はブルーだったのが、記憶に残されている。
リヒテルとの演奏は、ピアノのたくましい旋律線が印象に残る。第12曲はまるで、バッハのマタイの旋律をなぞっているかのようだ。それは、デザインの盗用などではなく、本歌取りといえるものである。
ブラームスの歌は、バッハの伝統にさかのぼることができるだろう。