千曲万来余話その182「バルビローリ、エルガー作曲、序奏とアレグロ」

熱心なブログ・ウォッチャーの一人から、バルビローリ指揮するエルガーや、ヴォーンウイリアムズ作品のCDを聴くと左側スピーカーからチェロの演奏が聞こえてくるので、確認してほしいとご指摘をいただいた。
1962年5月録音、EMIのLPレコードでチェックしてみたところ、ジャケット写真では、セッション写真で、演奏風景はVn、アルト、チェロという具合に左から右側に展開している。この写真が録音といかなる関係があるかは、不明である。
A面の序奏とアレグロ、後半のフーガに入る部分で第二ヴァイオリンから開始される。確実に右スピーカー
から始まり、左スピーカーの第一ヴァイオリン、チェロそしてアルトという具合に音楽は展開していく。
このことは、楽器配置問題で、作曲家のデッサンがいかなるものか?という疑問に対する明快な回答である。
第二ヴァイオリンが第一ヴァイオリンの奥にいるのは、演奏優位の発想であり、作曲者の意図ネグレクトにほかならない。今、時代はヴァイオリン両翼配置の復権である。TV放送で、NHK交響楽団は新しい首席指揮者としてパーヴォ・ヤールヴィを迎えてコンサートを重ねている。リヒャルト・シュトラウス、そしてマーラー作品の演奏で、彼はヴァイオリン両翼配置を実行している。
ヘルベルト・ブロムシュテットの発言として、オーケストラ・プレーヤー達の自発性を指摘していたのは、記憶に新しい。1980年代のN響も一流の演奏を記録していたのは、そうであるが現在の彼らは、さらに自発的な演奏を実現しているというのである。
これは、演奏の質的な変化という指摘をできるであろう。ヴァイオリンの第一と第二を束ねないで開くという配置は、確かに演奏上のハードルは高いのであるが、それを乗り越える技術は作曲家のイメージの世界に迫ると言える。
思えば、バルビローリはチェロ奏者出身の指揮者であって、おなじみのトスカニーニにコンバートされて、ニューヨーク・フィルハーモニックの指揮を担当していたという経歴を持っている。トスカニーニは、モノーラル録音時代のグランドチャンピョンでありその演奏は、ヴァイオリン両翼配置が基本だった。
このことは、記憶、認識しておいたほうが良い。彼らのテンション高い演奏は、高いハードルを乗りこえた音楽だったのである。
ステレオ録音は、左スピーカーから音域の高い音、左側は低い音という具合に楽器は配置されていた。それは、結果、作曲者のイメージとは異なる音楽であったといえる。バルビローリの音楽的特徴である彫りの深い表情は、彼のアメリカでの演奏経験の上にできあがっていた。
管弦楽のみならず、室内楽においても、ヴァイオリン両翼配置のステレオ録音時代を歓迎したい。