千曲万来余話その193「田園交響曲、オーディオ的深まりでその経験を確かめる」

LPレコードを聞く時、プレーヤーの操作を必要とする。その上で、アンプの働きにより音の増幅をへて、スピーカーが駆動されてオーケストラの音楽が再生される。
盤友人の場合、プレーヤーからJSのモノーラル録音再生のための昇圧トランスでステップアップを図り、そうしてフォノイコライザーを経由してプリアンプに接続、パワーアンプでスピーカーを鳴らすのだけれども、そのフォノイコライザーにヴォリュームのつまみがあってその調節が微妙である。
今まで少しひずみ気味の具合だった。つまみが12時の位置だったのを反時計まわりで9時から3時までひねってみる。その上で、パワーアンプへの送り込み段階のヴォリュームを12時の位置から時計回り3時に上げることになる。デイボンというダイヤル式のアッティネーターだ。
そうする行程を経験すると、中高音域のアップ気味の傾向から、低音域の豊かな音響に変化する。
ベートーヴェンの交響曲第六番は、田園交響曲であり、田舎に着いたときの愉快な気分が第一楽章の標題。音楽のテンポを、アレグロという快速調、速く演奏するか、ゆったりと快く演奏するかで分かれるところだ。ウィルヘルム・フルトヴェングラーのレコードによるとゆったりと指揮をした音楽になっている。ヘルベルト・フォン・カラヤンの指揮によると、スポーツカーで乗りつけたかのように速いテンポでオーケストラは演奏している。1950年頃録音の、トーマス・ビーチャム指揮するロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団のLPを再生して、感動を新たにした。ゆったりとしたテンポが、実にこころよい。
第二楽章、小川の情景、第三楽章、いなかの人々の楽しい集い、と進んでいく。
弦楽器の音響で、ヴァイオリンの主旋律もさることながら、その低音域で、コントラバスの旋律線が、手応え充分で安定感がある。音響に不安定なユレが無く、太いメロディーラインで素晴らしい。これは、今まで経験しなかった世界だ。楽しい集いのホルン独奏は飛びきりの名演奏だし、第四楽章、雷鳴と嵐でもホルンが弦楽器群と五分五分の大音響を披露している。
別のソース、CDのライナーノーツ、オーケストラメンバー表によると、ホルン奏者のトップには、ビッグネイム、デニス・ブレインの名前がある。田園交響曲のLPレコードには、メンバー表はないのだけれども、再生していると、ホルンが飛び抜けて楽々と演奏しているのが伝わる。当時、ビーチャム卿がロンドンの名プレーヤーを召集して編成した男性ばかりのオーケストラが、ロイヤル・フィルハーモニーだった。
その余りにも、ゆとりある音楽を、モノーラル録音であっても上手い具合に再生できて初めて、その醍醐味を味わうことができたということではないだろうか?