千曲万来余話その212「ディヴェルティメント変ホ長調K563を聴いて」

嬉遊曲ディヴェルティメントK563は、弦楽三重奏曲になっている。1788年9月27日に、ウィーンで作曲。三重奏というと、ピアノトリオはピアノ、ヴァイオリン、チェロという楽器編成。
室内楽というと、モノーラル録音は抵抗感が無く、音響を音楽として愉しめるのだけれど、演奏する側としては、どのような楽器配置にするかという問題が、先決の前提条件となっている。
音響すなわち、音楽という考え方によると、楽器配置は楽理の問題に相当しないということにはなる。けれども、ステレオ録音となると、定位という問題が関係して、音楽を愉しむとき、一大事となってくる。
話を簡単にすると、ステレオ録音でありがちなのは、左側に高音、右側に低音という配置である。
弦楽トリオでいうと、ヴァイオリン、アルト、チェロという考え方、これをステレオタイプといえるだろう。ギドン・クレーメルのヴァイオリン、キム・カシュカシアンのアルト、ヨーヨー・マのチェロという1985年コピーライトの演奏を聴く。ギドン・クレーメルが左側にいるのは、当然であろう。右側には、アルトでキム・カシュカシアンが聞こえ、中央にヨーヨー・マのチェロが自然に配置されている。ステレオ録音だと、よく左右の配置がどうのという感覚なのだけれど、大事なのは、センター中央に定位するという感覚である。そこにスピーカーは無いのだけれど、感覚として中央に聞こえるのが定位というものである。
この録音を聴くとき、三種類の楽器の歌が掛け合いで聞こえて、実にモーツァルト作曲者の仕掛けが機能して遺憾なく発揮されるのが音楽というものであろう。
だから、ピアノトリオも、ステレオタイプだと、ピアノが中央で、左右にVn、そしてチェロが右というものであるけれど、センター中央には、チェロ、左右対称としてVnとピアノの掛け合いが考えられる。
弦楽三重奏が、弦楽四重奏の原型だと考えると、Vn、チェロ、アルト、そして右側に第二Vnが考えられる。ひるがえって、シューベルトのピアノ五重奏曲ますは、原型が弦楽トリオそして、左側にコントラバス、右側にピアノという配置が作曲者の意図に沿うと考えられる。
ラルキブデッリ、アンナー・ビルスマのチェロ、ジョセファン・インマーゼルのフォルテ・ピアノ、マージ・ダニロフのコントラバスで1997年録音のコンパクトディスクを聴くと、Cbは左側、ピアノは中央に聞こえる。前列中央にアンナー・ビルスマのチェロが定位している。この録音で、すっきりと、ピアノが右スピーカーから聞こえると、それで良いのだけれど・・・・・