千曲万来余話その227~1981年4,5月録音盤のアナログ・ソースを入手して

グレン・グールドの演奏したバッハのゴールドベルク変奏曲は、新旧の二種類、モノーラル録音で1955録音と1981年ディジタル、ステレオ録音のものとがある。
先日、知人から1981年のアナログ録音盤があるよ、と聞いていて、とても気になっていたところ、運良く購入することができて、再生することになった。 同じLPレコードでありながら、オランダ・プレス、ドイツ・ブレス、アメリカ・プレス、その上UE・プレスのヨーロッパ盤という4種類目を入手することにあいなった次第だ。
レコードを再生するまでのワクワク感といったら、この気持ち、お分かりになるだろうか? すでに、お気づきの方もいらっしゃるだろうけれども、アナログ録音とディジタル録音の違いは、どこにあるのか?そもそも、どの程度の違いがあるものなのか?一体分かるものかどうか? 思えば、1980年当時、レコード業界は、新しい時代の幕開けということで、パルス・コード・モデュレーション録音、PCMという録音方式が導入されて、華々しい展開を見せていた。
アナログ時代は終わった!という感覚であった。 果たして、新時代になって、コンパクト・ディスクの全盛期を迎えたのであるが、最近、アナログ盤の滅亡とは、まったく正反対で、復興期を迎えている。衰退しているのはCDのほうなのである。 その当時、新方式のディジタル録音は、ノイズのない、画期的録音でさらに、音が良いというなりこみであったことは記憶に新しい。これは、レコード産業界の情報コントロール、情報操作にしかすぎなかったということに注意が必要であろう。 事実、ディジタルとアナログ録音の二つを、今更ながらに比較して、聴くことができるというのは、何も、初めてのことでもありませんがね!ということでもある。
そこの違いは、倍音ハーモニック・オーヴァートーンの再生にある。 グレン・グールドが演奏しているピアノの音の響き方、左手の低音成分が、右手の旋律の響きと溶け合っているという再生具合であった。 倍音というのは、基音の整数倍上の音響のことで、ピアノの弦、一本一本の振動によってその間隔で発生する音響のことをいう。 だから、ピアノの音など、基音だけではなくて、全体の音響を再生するのがアナログサウンドといえる。ディジタル録音では、そこのところ、不得意なのである。 そのアナログにより、ピアノの音響の印象が強められて、スピーカーの鳴り方が、豊満ということができる。もはや、ディジタルは、アナログより音が、良いのではなくて、乗りこえることのできない世界であったというまでである。
アナログ録音を再生して、グレン・グールドの演奏は、さらに生々しく、記録として感動的な世界に変貌を遂げたといえる。言葉の正確な意味において、行間を読め!というのは、まさしく、倍音の再生こそアナログの神髄ということである。グレン・グールドのレコードこそ不滅でありバッハのゴールドベルグ変奏曲を聴いて、ぐっすり眠ることができたのは、いうまでもない。