千曲万来余話その231「バッハの名演奏、グリュミオーとレッパードの指揮で聴く」

指揮者、チェンバロ奏者でもあるレイモンド・レッパードは1927年8月11日ロンドン出身 1952年指揮者デビュウして、イギリス室内管弦楽団を中心に活動、1977年から米国市民権を獲得して、セントルイス響首席客演指揮者などを務めた。 バロック音楽にとどまらず、古典派、ロマン派、近代の作品まで幅広く、溌剌として端正な演奏を展開している。
フィリップス録音で、1964年、70年頃アルテュール・グリュミオーを独奏者に迎えたバッハの作品主題目録番号BWV1041第一番イ短調、1042第二番ホ長調は、ことのほか名演奏だ。
バッハは1708年から1717年ザクセン=ワイマール公の宮廷礼拝堂オルガニスト兼宮廷楽師 時代ヴィヴァルディを始めとしたイタリア様式の協奏曲を知り、オルガンやチェンバロ協奏曲への編曲をものしていた。その後、アンハルト=ケーテン侯の宮廷楽長として世俗音楽を多数作曲していて、その中にヴァイオリン協奏曲がある。
グリュミオーの独奏は、美しい音色であり、豊かな音響をともなっている。抜群の音楽性で屈指の名演。オーケストラは、チェンバロの通奏をレイモンド・レッパードが担当して、弦楽五部の体裁をとっている。
指揮者の仕事は、手を振り回すことではあらずして、楽員の音楽性を引き出すことにある。身振り、手振りは合図の仕草であって、ここに聴くことができる音楽は、生き生きと、溌剌とした演奏がことのほか際だっている。第二番ホ長調の緩徐楽章、ゆったりとしたテンポにもかかわらず、さくさくと音楽が進んでいく感覚は、他に例を見ないほどの演奏である。
チェンバロの音量は、弦楽合奏に比較して微弱なものであり、ところがくっきりと際だっているのは、音の立ち上がりが、前へ前へと先に演奏されるからに他ならない。まさに名人芸の典型である。
ここでは、指揮する合間にレッパードは演奏していて、独奏者も音楽を推進する主導権を発揮しているかのごとくであり、アンサンブルが楽しい。レッパードの指揮は徹底していて、歯切れの良い イギリス室内合奏団の演奏を引き出している。 後味は、レギュラーコーヒー、ネルドリップ抽出のものに似ているだろう。