千曲万来余話その238「バドェラ=スコダが弾くB氏ソナタ全集を聴く、その一」

1927年ウィーンに生まれたピアニスト、パウル バドゥラ=スコダはチェコ系の家系に当たる。1960年代には、ウエストミンスター盤録音で活躍している。その印象は、学究肌で手堅いものだ。
バックハウスやケンプの演奏するような華やかさはないけれど彼が弾くベートーヴェンの音楽は、なにか、B氏の魂が宿っている雰囲気を感じさせるに充分である。 こだわりその1 使用する楽器は、ベーゼンドルファーが主体である。特にクレジットは無いけれども、その響きには低音の力強さと、量感が表現されている。B氏の奏鳴曲ソナタを第1番から順番に聴き進めるうちに、左手の打鍵の雄弁さが伝わり方などは、あの響き方に説得力がある。
現代では、スタインウエイが多数派、主流。ドイツグラモフォンで、ケンプのステレオ録音盤を聴くと音色の違いがよく分かる。それは華麗で洗練されていて、スマートな音響だけれど、スコダが弾くベートーヴェンには、B氏のふさわしさが感じられる。アメリカMHS音楽的遺産協会盤。
こだわりその2 レコードの配列は、曲目の順番が尊重されていて、作曲者の音楽の進化する様子が、印象的である。わけても、第8番ハ短調作品13では、ソナタ、パセティーク悲愴というタイトルを与えている理由などよく伝わってきて、感動する。
それまで、モーツァルトの精神をハイドンの手をもって演奏するという世界から、訣別し、ベートーヴェンの確立した世界に出会うことになる。
こだわりその3 ベートーヴェンの音楽は、革命である。 それまでの音楽という音響の世界に、両親の死を追慕するという思想を表明する文学的芸術としての融合を果たした。特に文章を残したのではないけれど、彼の心理を類推するに、作曲者は16歳半ばで母マリア・マクダレーナ41歳と死別していて終生、思慕の情を懐いていたといわれている。
父ヨハン52歳とはルートヴィヒ21歳の時だった。第二楽章、スコダはその揺らぎを美しく演奏している。1798年には完成していたソナタ第8番は、99年に楽譜刊行されている。 彼の音楽で、前期の時代にあたる。