千曲万来余話その252「名技性を発揮するブラームス、ピアノ協奏曲第二番を弾いたゲルバー」

協奏曲というと、三楽章形式が普通だが、この曲は四楽章形式で成り立っている。冒頭はホルンの独奏で開始されて、プレーヤーのプレッシャーは、マキシマムと想像される。ピアニストはそれに呼応するかのように決然と弾き始めるところは、管弦楽とピアノという楽器の対決として興味深いものがある。
第一楽章は、なにか、船の航海旅行のような気分にさせられて、シンフォニーを聴くようなスケール感がある。第二楽章はスケルツォのような諧謔的な音楽、一変して続く第三楽章は独奏チェロの瞑想的な歌が披露される。管楽器との対話など、沈潜した落ち着いた雰囲気に包まれる。フィナーレは、爽やかで、晴れ渡った清々しさを感じさせ、ピアノの音楽はさえずる小鳥達に応えるような嬉々とした歌に仕上がっている。
1881年3月には第二回イタリア旅行を経験したブラームスは、ウィーンから鉄道で40分ほど離れた緑深いプレスバウムで夏を過ごし、作品83として変ロ長調協奏曲第二番を完成している。 第四楽章では、フルートの持ち替えとしてピッコロを採用するなど、保守的な作風とは正反対に、革新的な作曲、管弦楽法を披露している。
ブルーノ=レオナルド・ゲルバーは、ブエノスアイレス生まれで1942年、41年とも云われている。ピアノ名教師スカラムッツァに師事していて、マルタ・アルヘリチとは姉弟弟子関係にある。彼は、小児マヒを経験していて歩行に不自由であるが、その演奏ぶりは豪快で、なおかつ繊細な、高いテクニックを披露する。
1973年頃、63歳ルドルフ・ケンペ指揮するロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団の録音は、低音成分が雄大で、ホルンは指揮者の右手側、奥から聞こえてきて、第三楽章独奏チェロは、中央左手寄りに定位する。もちろん、第二ヴァイオリンとヴィオラ=アルトは、右側スピーカーから聞こえてきて、ポリフォニック多声音楽の妙味が味わえる。 歯切れの良い、明快で、輝かしいタッチのゲルバー、ピアノは、シンフォニックな管弦楽に対応する多彩な音楽を演奏する。
そして、管楽器の純正なハーモニーは、緊張感たっぷりの音楽で独奏者のヴィルトゥオウジティー名技牲を遺憾なくサポートする。 ルドルフ・ケンペの音楽は、オーケストラから力感を引き出していて、凡百の演奏とは、截然として異なる。過不足のないロマンティークな音楽は、聴いて爽やかな感想を約束している。録音当時30代のゲルバー、エヴァーグリーンの記録である。