千曲万来余話その290「オーディオ人生、最高のLPレコード、第九の季節に・・・」を掲載。

高校生の時分に学校図書室で、吉田秀和著作現代の演奏を読みつつディートリヒ・フィッシャー=ディースカウの名前に出会っている。さいわいに、旧札幌市民会館、ギュンター・ワイセンボルンという名ピアニストの伴奏を得て、シューベルトの歌曲集、美しい水車屋の娘の演奏会を体験している。彼は、長身で歌い終えたステージ袖に引き下がる後ろ姿が、まぶたに焼き付いている。あの寂寥感は、印象的であった。言うまでもなく、その彼は膨大な量のレコーディングを果たしている。2012年5月18日ミュンヘン近郊のベルクの自宅、86歳で死去。後を追うように教育者にして音楽評論家の泰斗、吉田秀和が2012年5月22日98歳、鎌倉の自宅にて死去している。
よく人は、生の音楽は最高、というフレーズを口にして、そこで止まっている。盤友人は、コンサートに足を運ぶし、SPレコード蓄音機鑑賞会や、LPレコード収集にもつとめている。そこでいえることは、オーディオ人生また愉しからずやというフレーズである。LPレコードを再生して最良の瞬間を体験したとき、幸福感を味わえる。だから、侮る事なかれ、LPレコードライフということである。その醍醐味こそ、生きる糧である。お金のことは別問題だ。
1957年12月、ドイツ・グラムフォンは、記念碑的アナログレコードをリリースした。
フェレンツ・フリッチャイが指揮するベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏で、ベートーヴェン作曲、交響曲第九番ニ短調作品125合唱付きだ。イルムガルト・ゼーフリート、モーリン・フォレスター、エルンスト・ヘフリガー、そしてバリトン歌手は彼唯一の記録になるディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ32歳の時の演奏である。その直前10月には、オットー・クレンペラーが、ハンス・ホッターのバリトン独唱、フィルハーモニア管弦楽団、ロンドンで録音している。フリッチャイは当時、43歳、ベルリンにフルトヴェングラーの再来とまで、評判を得たハンガリー出身の指揮者であった。
ディースカウが開始するフロイデ喜びよという発声のFフッは、聴きものであり立派に記録されている。すなわち、オーディオ再生の醍醐味は、一にも二にも生々しさであり、その記録は不滅であって、生の音楽の記録そして、その再生である。首席フルート奏者その当時はオーレル・ニコレ であり、緊張感溢れるスリリングな演奏は唯一無二で、これを越えるLPレコードは、皆無だ。盤友人は、好運にも赤布箱入りをモノーラル、ステレオの両方を所有している。
ベルリン・フィルハーモニー演奏の第三楽章アダージョで、コントラバスが奏でる低音旋律線は、LPレコード再生の規範となる。あの再生音の感覚こそ、オーディオの神髄であり、ドイツ・グラムフォンLPレコードをEMT927のプレーヤーで廻す喜びを、密かに愉しんでいる。
アナログ・ソース、その音楽性追求の道は、果てしなく、人生そのものである。
もちろん、日本国中多数の人たちは、コンパトディスクの世界であろう事を想像しているのだが、札幌音蔵は、音にではなく音楽のために、ヴィンテージオーディオを提供している。 「LPレコードよ、永遠なれ!