千曲万来余話その292「ピアノ三重奏曲、イ短調、ラヴェル作曲による深遠なる世界」を掲載。

12月3日土曜日、江別市は朝から快晴で、夕方五時半頃、南西の空には月星が同時に輝いていた。三日月の左側に宵の明星が青白く目に映えている。ヴィーナス、金星である。前回、あれはフォーマルハウトでは?と発信していたけれど明らかに惑星の輝きで、太白と言われたもの。夜に入ってそこ辺りに、北落師門が見えるのだろう。ここに誤解を訂正しておく。
不思議なことであるのだけれど、ラヴェル作品に、番号は付けられていない。いかにも彼らしい。ピアノ三重奏曲イ短調は1914年に作曲されている。彼の以前には、サンサーンスという大作曲家が活躍していた。同様にオリヴィエ・メシアンの前にはマスネーやドビュッスィがいて、ストラヴィンスキーの前にはリムスキー=コルサコフがいた。すなわち、歴史には数々の作曲家が活躍しているけれど、彼らは微妙に影響を見せているということだ。ベートーヴェンの前にはハイドン、モーツァルトがいて、彼の後には、フランツ・リストが活躍していた。その音楽の萌芽は、シューベルトの世界に既にあったといえるかもしれない。
四楽章構成のピアノトリオ、第三楽章はゆったりと深い音楽になっている。当時、ヨーロッパには第一次大戦の暗雲が垂れこめていて、ピアノの低音が印象的。フイナーレは活気に満ちて希望を求める音楽になっている。
ボーザール・トリオ、ピアノはメナヘム・プレスラー、ヴァイオリンはダニエル・ギレー、チェロとして、バーナード・グリーンハウス。ラヴェルの三重奏曲は1971年頃のフィリップス録音。
ギレーは、ロシア系フランス人、ティボーやエネスコに師事していて1951年まで、十年間、NBC交響楽団のコンサートマスターとして、トスカニーニのもとで演奏している。楽器は1718年製のストラディバリウス、モナステーミオ。
グリーンハウスは、カザルスに薫陶を得ている。教育家としての経歴もある。使用している楽器はストラディバリウス、1707年製パガニーニ。
彼らの演奏は、1955年にアメリカ合衆国で正式に結成された。60年には国際的に認められていて、ティボー・コルトー・カザルストリオの再来とまで称賛されている。
日本では、余り評価が高いとはいえなかった。しかし、今、彼らの演奏を鑑賞してそのアナログ録音の優秀さは特筆されてよく、グリーンハウスの格調高い音楽は彼らのしっかりした土台、緊張感は最後の余韻に、如実に反映されている。良く鳴る音楽をラヴェルは書いて、彼らはそれを記録したといえる。
ピアノ、ヴァイオリン、チェロという数少ない楽器で、その世界は奥深く味わい充分な音楽と言える。ワーグナーの神々の黄昏、それはそれとして壮大な世界、だがしかし、ラヴェルの音楽は、知的で、説得力のある室内楽として貴重なものなのである。オーディオでは、長い道のりを経て、倍音再生に成果が上がって、到達した極上の醍醐味だろう。記録レコードとは、録音空間の再生を目指して、音楽の躍動する演奏、作曲者の微笑みに出会えてこそ、鑑賞者冥利につきる。まさに、人生そのもの。12月6日はエジソン由来の音の日。それこそ音楽のためにあるのだろう。