千曲万来余話その299「ラヴェル、ピアノ三重奏曲イ短調作品70の1をフランス三重奏団で聴く」

そのレコードジャケット写真によると、左からジャンヌ・ゴーティエ、アンドレ・レヴィ、ジュヌヴィエーヌ・ジョワという配置。特に、ある人はゴーティエをこれは男性だと早合点したのだが、その名は、ジャンヌであり、明らかに女性の名前である。ジュヌヴィエーヌという名前、以前は写真が無かったために、男性名か女性名か?迷ったことがあった。くだんの彼は、写真を見て男性ではないか?と云ったけれど、レコードを聴いてそのヴァイオリンの演奏は、繊細、華麗でそのヴィヴラートからして、女性的であった。その経歴を知ることにより、さらに驚くことになったのである。トリオドゥフランス、結成は1952年にさかのぼるとのこと。
ゴーティエ1898~1974は、パリ音楽院でジュール・ブーシュリに師事、1914年プルミエ・プリを受賞、その門下生には、ヌヴー、ボベスコ、オークレール、フェラスなど名手が多数いた。
レヴィ1894~1982は、パリ音楽院にてシュヴィヤールに室内楽、チェロをロエブに師事、1912年フルミエ・プリを獲得、戦後は、パリのエコール・ノルマルで後進の指導にあたり、演奏活動も続けている。1951年来日しているとのこと。
ジョワ1919~2009は、パリ音楽院でイーヴ・ナットに師事し、主席卒業を果たし、1947年、作曲家デュティユーと出会い、その後に結婚、1948年4月30日初演されたピアノソナタは、彼女に献呈されている。ジョワは、1952年に来日、そのほか、レコードリリースは、エラートからされていて、オークレールとのシューベルトのソナチネ集が有名である。
フランス三重奏団は、彼らの録音の中で、1965年のステレオのものが最期にあたる。放送録音でライヴ、最後に拍手が入っていてそれと知れる。
意外なことだが、オーディオ関係者の感覚としてその前提にモノーラルというものが発想の出発になっている。だから、ステレオ録音でもって、楽器の配置にそれほどの、問題意識を有していない。盤友人は、好運にもピアノ、声楽、合唱、フルート演奏の経験があるため、その楽器配置問題に高い意識を持っている。それはどうでもいいはずがない。というのは、作曲家は楽譜の作成であって、楽器配置は、演奏者の主体に委ねられているのは、その通りなのだが、演奏家が演奏する焦点の意識には、前提として、客席の中に作曲者は居るのであって、どのように聞こえるか?という問題は、演奏者によって解決されなければならない課題なのである。
特に室内楽において、チェロの位置は、深い洞察が必要で、ということは、音楽的配慮が必要ということである。ステレオ録音の室内楽LPレコードの多数は、舞台左手側に高音、右手側に低音という感覚が、出発点であったのは、事実である。盤友人は、ステレオ録音の定位フェイズ問題を克服したとき、例えば、弦楽三重奏でチェロの位置を決定したら、それは中央の定位であるという感覚は、作曲者の意図に関係するという確信に到達した。音響の中心は、チェロという低音域を土台に、左手側にVn右手側にアルト=ヴィオラという配置がベストなのである。さてアルトの位置にはピアノが相応しいのではないか?という思いは、2016年に入手したinaのLPステレオ録音レコードの再生で、実際の音楽となった。だからピアノ三重奏は、中央にチェロの配置、右手側にピアノのセッティングが作曲者の意図実現だと思われる。それは今年の到達点である。