千曲万来余話その391「クリスマスオラトリオ、ヨッフム指揮する名盤、名演奏・・・」

全国のバッハファンのみなさんお早うございます、と角倉一郎さんが伝えていたのは昭和40~50年代のFM放送、日曜日朝、音楽番組開始の名セリフだった。
 バッハの音楽はクラシック音楽の中でも別格、何か特別な感慨を与えてくれるひと時であったのだ。なぜそのように感じるのか? それは聴くにしても、演奏するにしても、彼の音楽は原点ともいうべき根本的感動を分かち合える数少ない音楽であるからではなかろうか。
 音楽の三要素、リズム律動、メロディー旋律、ハーモニー和声が綜合的にまとめられていて、何より、調性といって長調と短調からなる音楽の典型的な音楽になっている。クラシック音楽は全てがそうではないか? という疑問を持たれる向きもあろうけれども、バッハの音楽にはさらに、宗教性、全キリスト教的性格を帯びているという特徴を成しているのである。
 バロック音楽、十七世紀、どこかいびつなという意味のあるバロック、その音楽の高みにあるのがヨハン・セヴァスティアン・バッハ1685~1750で、ジョージ・ヘンデルは同年生まれだ。
 クリスマスオラトリオBWV248は1734~35年に、それ以前作曲されていたカンタータなどを素材としてまとめ上げられた音楽である。 六部編成、それぞれクリスマスから翌年一月六日にかけ、教会暦の祝祭日に沿って初演されている。 歓喜して小躍りせよ! から 第六部主よ、高ぶる敵が息巻くとき、顕現節三王の礼拝まで全64曲からなり、21曲に旧作から転用された音楽である。
 オイゲン・ヨッフム1901.11/1バーベンハウゼン生~1987.3/26ミュンヘン没
 彼が指揮するとき、音楽は躍動的でなおかつ、喜悦に溢れた正統的なものに仕上がっている。ここBWV248でも、分厚い声部、躍動感のある重厚なスタイルである。コントラバスなど通常編成の規模で、小編成の音響とは異なる。
 エヴァンゲリスト福音史家、テノールにホルスト・ラウベンタール、バス、ヘルマン・プライ、アルト、ブリギッテ・ファスベンダー、ソプラノにはエリー・アメリンクが起用されている。
 合唱と管弦楽は、バイエルン放送交響楽団、合唱団、テルツ少年合唱団。通奏低音としてオルガンにフランツ・レールンドルファー、チェンバロとしてヘドウィッヒ・ビルグラム、チェロにラインハルト・ビュール、コントラバスにフランツ・ヘーガー、ファゴットにカール・コールビンガー、第一独奏Vnにルドルフ・ケッケルトらである。1972 年頃録音。
 開始の音楽での、歓喜せよというコーラスには、喜びがあふれていて、二つのスピーカー中央にはティンパニーの柔らかでリズミカルな音楽が奏でられ、トランペットの吹奏により、さらに感情が高められる働きがある。ステレオ録音という設定は、作曲者の想定外ではあっても、その効果を彼は想定しているであろう音楽なのである。つまり、ティンパニーの音楽は弦楽器に包まれているのであって、そのように配置されて、いやが上にも喜びの音楽を高揚させている。コーラスの配置にしても、テノールが始まりで、アルト、ソプラノそしてバスというカノン、追いかけは男声部後列、女声部前列、左右の対話として初めて効果的と云えるのであろう。
 シンフォニアで、弦楽器の他に通奏低音としてチェンバロの音が聞こるが、それは当たり前ではない、ヨッフムの深い思慮が働いてのことなので、彼こそ伝道師として一流である。