千曲万来余話その481~「大公トリオ、フォイヤマン芸術の粋、百万ドルトリオ1941年録音」

 2月26日は不肖、盤友人の誕生日、うお座、横綱北の湖敏満関と同年生まれ。目出度くもあり冥途への一里塚、千曲万来余話も佳境に入り、お付き合いのほど何とぞよろしくお願いします。
 LPレコード収集というもの、オーディオのグレードアップと並行して、先祖がえりともいうべきモノーラル録音盤の再生に、俄然、感激の度合いが向上をみせている。再生する音が豊かになるに従い、真骨頂に迫るよろこびを味わうというものである。此処に至って、RCA1941年録音になるベートーヴェンの大公トリオ、決定盤に出会った。とにかく、名人三重奏、名演、名録音の三拍子そろっている。
 エマニュエル・フォイヤマン1902.11/22コロミヤ(ウクライナ)~1942.5/25ニューヨーク没、ポーランドのガリチア地方生まれ。11歳でワインガルトナー指揮ウィーンの交響楽団でデビューを行っている。早熟の天才で27年ケルン音楽院29年ベルリン音楽院教授に迎えられている。ドイツ時代にはベルリン・フィルと共演のほかVnシモン・ゴールドベルク、Pfパウル・ヒンデミットらとトリオを結成、活動していた。1933年ナチス政権誕生とともにドイツを去り渡米することになる。1934年36年と二回来日していて、教育者としても有名な斉藤秀雄は彼に師事している。アメリカでは、ピアノのアルトゥール・ルービンシュタイン、Vnのヤッシャ・ハイフェッツと、三重奏グループを結成し、当時、百万ドルトリオと言われ名声を博している。惜しくも40歳で虫垂炎により死去している。フォイヤマンの特色は、チェロを楽々とヴァイオリンのように演奏し、力強く、切れ味の良い演奏を披露している。甘い音色、新即物主義的解釈でピアノでいうと、ギーゼキングのような演奏というべきであろうか?パブロ・カザルスが父親的な存在とすると、フォイヤマンは二枚目的、主役級の大物チェリストといえる。彼の録音は、どれも魂のこもった存在感ある音色、一聴して惹き寄せられる不思議な演奏の記録である。上手に再生することができるのは、一段落、向上したオーディオの愉悦である。
 ベートーヴェン41歳で1811年に、第七番変ロ長調作品97としてピアノトリオを作曲、ルドルフ大公1788~1831に献呈している。ちょうど交響曲第七番と八番作曲の壮年期である。気力が横溢していて、冒頭の第一楽章第一主題は、気宇壮大、演奏気力の充実を求められる、いかにも、ルートヴィヒ・ファン・ベートーヴェンの面目躍如、意気盛んな音楽と云える。 RCA盤では、余裕綽々のルービンシュタインのピアノ演奏もさりながら、ハイフェッツは、ピタリとフォイヤマンのチェロに寄り添っていて、室内楽演奏の醍醐味を十二分に実現している。F氏は余りにも楽々と演奏しているから、チェロもヴァイオリンのような感覚で、しかも、音域は低音であるからして、安定感抜群である。不思議にも、チェロこそ合奏の主役のように聞こえる。ピアノが楽器の王様であるとしたら、チェロは司祭のようで、ヴァイオリンは口上の役者、三者による饗宴である。たとえば、作曲家ブラームス生前の頃、ウィーン・フィルで演奏者たちの報酬で一番上が、チェロ奏者であったというのは、いかにも頷けるというものである。
 ベニー・グッドマンによる、カーネギーホールコンサートでギャランティー、一番上は音符の数からしてドラム奏者のジーン・クルーパーが要求したというエピソードもあるけれど、割に合わないのはピアニストでも、チェリストの重要性は、フォイヤマンの演奏がある限り、説得力があるというものである。
 大公トリオは四楽章構成で第三楽章は緩徐楽章、アタッカ継続してフィナーレを迎えるのはB氏の創意であって、大柄な音楽になっている。