千曲万来余話その501~「ベートーヴェンは一所懸命にこそ、作曲したのだから・・・」

 
 交響曲はシンフォニー、すなわち三声部の旋律を基本として仕上げられた合奏曲をいうのであり、管弦楽とティンパニーが組み合わせられていて音楽を構成している。ということは、舞台に楽器がどのように配置されるのかは、指揮者と管弦楽奏者の理解を前提として成立する。一般的に、オーケストラはその時代経過により合意が形成されていて、その背景を探ることが指揮者たちに要請されているといえる。2019年の時点で、大きな転換の潮目を感じているのは盤友人だけのことなのだろうか?たとえば、NHKのクラシック音楽館では、同じオーケストラが異なる弦楽器配置で演奏が成されている。これは、1960年代からTVを視聴してきて新しい経験なのである。
 交響曲第5番ハ短調作品67は、1808年12月ウィーンで初演されている。テアトル・イン・デア・ウィーンという場所からして聴衆の数は千人を超えてはいない。その半分以下で現代日本の千から二千人程度のホールから考えるとき、演奏者編成の規模も初演の頃のコントラバスが三人程度から、現代では六人前後という倍くらいの増加をみているのだろう。楽器自体も構造は進化しているのである。だから1980年代から時代ピリオド楽器の演奏が試みられているのは、一つの時代背景なのであって、音楽観が再考されるきっかけを迎えたといえる。
 第五番は、当時の楽器編成にピッコロ、コントラファゴット、アルトトロンボーンほか三種という五本の管楽器が加えられている。そして、開始部は弦楽五部と同時にクラリネットの吹奏が加わり、総譜を開くと、音を出している六段と休止している楽譜とのコントラストが図られている。初演当時ではヴァイオリン両翼配置が前提であり、指揮者の左手側に、コントラバス、チェロ、第一ヴァイオリンが座席している。その右手側には第二Vnとヴィオラ=アルトが配置されていて、その奥にはクラリネットが座席していると想像される。すなわち、フルートとオーボエの後ろにはファゴットとクラリネットという配置で、コントラバスの対称としてホルンが座席し、その奥にトランペットとトロンボーン舞台中央にティンパニーが要である。よく考えると、シューベルト、未完成交響曲開始部のオーボエとクラリネットの斉奏ユニゾンは、演奏者、前後していた方が舞台上のポイントとして作曲者想定する配置なのだろう。
 特にホルンは、楽器の構造からして舞台上手に配置された方が、音響として支配する空間は広いといえる。もっとも、ホール自体、シューボックス型からワインヤード型という変遷も時代変化の要因となり、楽器配置の多様性をみている。そのことは、初演された当時を探ることが要請される現代だといえるのだろう。特にVn両翼配置が成立する左右対称感は、現代主流となっているヴァイオリンとコントラバスを対称にする指揮者右手側低音部という感覚と対立する音楽である。
 第三楽章から終楽章に推移するティンパニーの最弱音の連打は、舞台中央に位置するこそ、肝であるという感覚は、指揮者が一番受け止める音楽として自然なのである。中央にチェロとアルトが座席して指揮者の両手にヴァイオリンが展開するのが、両翼配置の意図である。さらにいうと、チェロのオクターブ下でコントラバスが支えることにより、舞台下手に座席するのがベストになる。
 ジャケットの写真として、1972年コピーライト、チューリヒトーンハレ管弦楽団、指揮者ルドルフ・ケンペのものは、まさに、その通りの配置になっている。ところが、レコードを再生すると録音は右スピーカーから低音部コントラバスが配置されていて、腰を抜かしてしまう。録音の前提としてコンセプトは、聞いてわかりやすい高低グラデイションであるのだがこれは1970年台の多数派形成するものであったのだ。それから時代は五十年近く経過した・・・