千曲万来余話その535~「ヴェルディ、ミサ曲鎮魂のため、名花ミレッラ・フレーニ逝く・・・」

 ジュゼッペ・ヴェルディ1813~1901は歌劇作曲家としてイタリアの歴史に不動の地位を築いている。その彼のオペラ以外の重要な作品というと、レクイエム。1873年5/22イタリアの代表的詩人アレッサンドロ・マンツォーニの死去に際し作曲を決意して、初演は彼の一周忌ミラノ・サンマルコ教会にて120人の合唱、100人の管弦楽団そして4人の独唱者たちによって執り行われている。極めて大きな成功をおさめ、アンコールが繰り返されたという。その後、作曲者自身の指揮により、1875年パリ、ロンドン、ウィーン、さらに1876年ケルンのライン音楽祭でも演奏される運びとなった。パリ公演では4回予定が8回にもなったといわれ、ロンドンでは3日にわたってアルバート・ホールで大合唱団の出演で取り上げられた。
 ヴェルディの芸術にアンチの立場をとる音楽家たちにも、深い感動と消し去りがたい印象を与えている。いわく、凡庸な演奏でも涙が出るほど感動させられたと語ったのは、ハンス・フォン・ビューロー。信仰心と歌劇的な様式の高度な結合は、バッハの宗教音楽にも肩を並べる感情体験が約束されている。それはあたかも、ミケランジェロやラファエロたち、ルネッサンス文芸復興期を歴史とするイタリアの系譜に連なる色彩的でダイナミックな形態に直観力を発揮した表現力である。
 1曲レクイエム永遠に安息を与えたまえ主よ。2曲ィエス・イレ怒りの日~罪ある人が裁かれるために、ちりから蘇るその日こそ涙の日である、彼らすべてに休みを与えたまえ、アーメン。3曲オッフェルトリウム主イエス・キリスト光栄の主、死せる信者すべての霊魂を、地獄の罰と底なき深淵から救い出し、獅子の口から解き放ちたまえ。4曲サンクトゥス聖なるかな・・・万軍の神なる主。5曲アニュスデイ世の罪を除き給う神の子羊、彼らに永遠の安息を与え給え。6曲ルックス・エテルナ永遠の光明を彼らの上に輝かせ給え。7曲リヴェラ・メ解き放ち給え、かの恐ろしい日に永遠の死からわたしを、主よ、解き放ち給え。
 今年2020年2月9日にミレッラ・フレーニ死去。ソプラノ歌手1935.2/27北イタリア、モデナ生まれ。1963年ミラノ・スカラ座デビュー、翌年カラヤン指揮プッチーニ「ラ・ボエーム」ミミ役で大成功を収める。1972年1/3-5ベルリン、ダーレム・イエス・キリスト教会にてヴェルディ、レクイエムをカラヤン指揮、ベルリン・フィルハーモニーとレコーディング。独唱陣は他にメッツォ=クリスタ・ルートヴィヒ、テノール=カルロ・コッスッタ、バス=ニコライ・ギャウロフ。
 カラヤンが指揮をするとき、その合奏は細心の注意の上で、音の合わせ、アンサンブルは極上の記録を果たしている。とりわけ第5曲アニュス・デイは、ソプラノとメッツォソプラノによる無伴奏二重唱で始められる。、クリスタの安定した歌唱の上に、ミレッラ・フレーニのソプラノは立派な歌を披露している。カラヤンは何もしていないのではなく、そこに居るという指揮者として音楽に影響を与えていることに気を付けなければならない。彼の芸術は、微妙なニュアンスをきっちりと表現して、録音スタッフは最高の技術をもって記録することに成功している。技師たちは音楽の記録をするだけであって、それ以上ではない。そこがカラヤン芸術の秘訣であろう。あたかもミレッラは、天上の人々の如く最善の歌唱を実現していて、クリスタももちろん素晴らしいことこの上ない。芸術家の気高い精神が発露、高貴で光り輝く歌声でヴェルディの伝統を、忠実に再現している。充分にひそやかで、しなやか、慎ましい信仰心を表現することに成功しているのだ、絢爛豪華、歌劇的であることもまちがいない一面なのだが・・・演奏に1時間50分ほどかかる大曲だ。終曲はソプラノ、祈りの言葉で閉じられる。