千曲万来余話その614「モーツァルト40番ウィーンで正統的なクナッペルツブッシュ・・・」

 ステレオとモノラル録音について、その聞こえ方の相違とともに忘れてならないことは、その録音年代の演奏にある。だから、モノラル録音はその時代に相当する、カートリジ、アンプなど吟味しなければ充分な鑑賞体験を獲得することはできないことだろう。すなわち、SP録音もその時代の再生装置により愉しむことが出来るといって差し支えない。残念ながら、コンパクトディスクでは、ガラス箱の中の音楽を鑑賞しているが如き。極上再生するのに、相当する費用対効果が必要となる。                              1941.11/9ライヴ録音、ウィーン・フィルハーモニーによるモーツァルトの交響曲第40番ト短調K.550、指揮はハンス・クナッペルツブッシュ1888.3/12エルバーフェルト生れ~1965.10/25ミュンヘン没。練習嫌いとか、テンポを緩急自在に操るとか伝説の指揮者、晩年はミュンヘン市民に圧倒的に愛された。ウィーン・フィルの指揮台に初めて立ったのは1929年で、その深い絆は晩年まで続くことになる。ウィーン宮廷歌劇場管弦楽団を母体とした創立は1842年でウィーン・フィルは来年180周年を迎える。
 指揮者クナのこのレコードでの演奏は、ウィーン・フィルハーモニカーならではの正統的な演奏である。40番ト短調K.550は1788.7/25の作曲になる。フルート1本、オーボエ、ファゴット、ホルンは2管編成で、クラリネット2本追加した版は第2稿である。ここでは、クラリネットなしの演奏で、つまり、当時のウィーンではこれがスタンダード、最近はクラリネット有りが多数派、カール・シューリヒト指揮パリオペラ座管弦楽団などは、フィナーレだけクラリネット登場した演奏になっていて驚かされる。
 ファミミ、ファミミ、ファミミ/ド(移動ド読み)この主旋律に、ラドミという短調のトニカ主和音ジーマイナー、ゲーモールK.183交響曲25番、K.516弦楽五重奏曲4番ト短調の音楽開始は疾走する悲しみとか。第1楽章アレグロ モルト、充分に快速で、この解釈をいかに演奏するか? これをプレストに近づけて演奏したのは、フルトヴェングラー指揮ウィーン・フィル 1948年録音。クナの41年録音では、こころよい速さでフェレンツ・フリッチャイ指揮ウィーン交響楽団は、さらに一段ギアチェンジをシフトダウンさせたアレグロになっている。これは、モルト「充分に」という力点解釈での採用のように思われる。F・F氏の解釈はクレンペラー演奏に通じるものがある。
 提示部100小節でリピートは、たいてい省略される。299小節で楽章終止。楽譜で追っているとき、190小節目、フルートは譜面通り、変ロとニの音タイで旋律は降りる。ところが、現在では変ロ、ニ、へ、変イというメロディーラインに改変さていれる場合が多数派。考えられることは当時の楽器の構造により、最高音ヘFをモーツァルトは避けていたと思われるのだが、現在の楽器構造は楽にF音が可能だから、改変される。当時の味わい尊重では最高音Fに上がらない方が、モーツァルトに、より似つかわしいのかもしれない。第2楽章アンダンテ歩くような速さで52小節リピート123小節で終止、ここでの弦楽部の演奏は実に表情豊か、格調高くウィーン・フィルハーモニーの実力が遺憾なく発揮されていて、聴きごたえ充分である。多分、楽器間での対話の感覚は、第1と第2ヴァイオリンが楽器配置の上で隣りあわせよりも、距離感が有り、なおかつ、アルトと第2Vnの隣りあわせの方が濃密なアンサンブルが成立することは、よくよく考えるとモノラル録音でも配置の想像は容易であろう。
 第3楽章メヌエット、アレグレットやや快速で、14小節リピート、42小節リピート、トリオ60小節リピート、84小節ダカーポ、最初にもどり42小節Fineフィーネ。第4楽章フィナーレ、アレグロ、アッサイ 快速に、非常に。124小節リピート、308小節終止。
 テンポの感覚など、オーケストラには経験的に醸成されていて、クナッペルツブッシュが好き勝手にできる余地はなくウィーン・フィルが自然に演奏して時間構築しているといえるのだろう・・・