千曲万来余話その636「弦楽四重奏曲3番ベートーヴェンと2人の女性たち・・・」

 テレーゼ・ブルンスウィグはベートーヴェンより5歳年下、1806年には婚約し4年後には解消されている。1799年に知り合い1809年にはピアノソナタ24番ヘ長調作品78を献呈されなお熱情ソナタは2年前彼女の兄ブルンスヴィク伯爵に献呈されている。1812年B氏41歳の時不滅の恋人Tあてに手紙を書きつけていた。ジュリエッタ・グィチャルディはテレーゼの従姉妹いとこにあたり14歳年少で月光ソナタ作品27-2を献呈されている。彼女は1803年G伯爵と結婚、1814年までウィーンを離れていた。1796年にB氏は歌手の女性に見事ふられていた。いずれにせよ彼はピアノ教師として1799年テレーゼとヨゼフィーネの姉妹を弟子にとっている。この以前96年から97年にかけて彼は聴覚の変調、耳疾を自覚していたらしい。
 弦楽四重奏曲を作品18で6曲完成していて作曲年代は1798~1800年にかけて1801年には楽譜出版を刊行している。20歳年長のエマヌエル・アロイス・ノイラートと親しい関係にあり、弦楽四重奏の書き方について多くの教えを受けていた。ヘ長調作品が第1番となっていたが、スケッチ帳を調べるとニ長調ヘ長調ト長調つまり第3番1番2番と続いている。イ長調、変ロ長調、ハ短調という具合に作曲は進められて第5番6番4番という順番で完成している。すでにお気づきか、主音はレ・ファ・ソ・ラ・♭シ・ドという具合になる。
 3/8火曜日にPMF・OGOBによるスプリングコンサートで第3番ニ長調をキタラ小ホールにて鑑賞した。3/13日曜日には教文会館小ホールで大学生混声合唱団49定期演奏会に足を運んでいる。この2者の共通するキーワードとしてハーモニー和声のSATBソプラノ・アルト・テノール・バスが横一列並びになっていたことである。弦楽四重奏では、しも手第1,2Vn、アルト、チェロかみ手配置という具合。何も、この並びは現代配置ともいうべきで下手高音、上手低音というステレオ感覚であり、みなさんが耳になじんでいる配置。そこで3番の楽譜ポケットスコアをチェックする。確かに、第3楽章、34小節目Aから8小節間にかけてチェロ、アルト、第2、第1ヴァイオリンと旋律の受け渡しが作曲されている。つまり、舞台の上で上手から下手へと旋律の受け渡しが実現されていて、そのことによりこの配置が設定されたことが考えられる。楽譜の読み込みにおいて、第2楽章アンダンテ・コン・モートのスルウナコルダ1本の弦で指定第2ヴァイオリンの主旋律、このメロディーを浮かべるとき、あの配置はまずいので、今のチェロと配置交替したとき、ヴァイオリン両翼配置は成立するのだろう。つまり、時代、ベートーヴェン作曲当時は前提条件が「言葉」に残されていて、現代ではタブー禁忌とされている配置こそ、黄金の弦楽4部配置にあたる。
 混声4部でソプラノからバスへと横一列配置は、分離した音響で女声と男声がセパレイト、混声になるためには、主音をソプラノが発声する時、後ろにバスが配置されその横でテノールが属音、その前にアルトが第3音を発声してトニカ主和音はピュアトーンに近づくことになる。ソプラノとバスの間にアルトとテノールが配置されると距離的間隔から力強さが低下されることは想像するに難くない。同じことが弦楽四重奏にもあてはまり、第1ヴァイオリンと近づくべきはチェロ奏者にあるだろう。
 バリリ弦楽四重奏団によるベートーヴェン演奏の醍醐味は、歌謡性にある。ワルター・バリリ1921.6/16ウィーン~2022.2/1百歳没のモノラル録音レコードで往時を偲べるのは、何よりもの慰謝であろう。ご冥福をお祈りしつつ、名曲を再生し、ベートーヴェンの音楽を味わいたいものである。レコードというものは、音にではなく音楽のためにあるという原点を忘るべからず・・・・・