千曲盤来余話その71「音楽的話題と、主義主張の回避」

ローベルト・シューマンは、フレデリック・ショパンと同い年、1810年に生まれたロマン派のドイツの作曲家。交響曲第一番変ロ長調作品38、春は1841年1月、4日間ほどでスケッチは完成されたという。初演は、ライプツィッヒでメンデルスゾーンの指揮によった。
今から、40年ほど前に、盤友人はある風説にふれたことがある。すなわちシューマンの管弦楽法オーケストレイションは稚拙であり、問題があるというたぐいのものだった。
わりと、そのような印象は広がりを見せていたようだ。ユニゾンといって同じ旋律を複数の楽器が演奏しているなど、ポリフォニー多声部音楽としては、工夫に欠けるという程度の認識なのだろう。
ラファエル・クーベリック指揮したベルリン・フィルのレコードを聴いた。
ヴァイオリンとヴィオラの両翼型、左右スピーカーで旋律の対話が印象的である。さらに、コントラバス低音楽器が右スピーカーから聞こえるなど多数のレコードと同じであるために、そこのところがスルーされている。
1966年録音のオットー・クレンペラー指揮したニューフィルハーモニア管弦楽団などオールドジャーマンスタイル、コントラバス左手側ヴァイオリン両翼配置による演奏。
結論を急ぐと、オーケストレーション問題有りという風説は、ヴァイオリンを第一と第二で並べる配置の致命的欠陥問題である。両翼配置であるとき、ユニゾンによる問題などは発生しない。逆に、左右のスピーカーからヴァイオリンの音が流れてくることは、愉快ですらある。1979年録音のバイエルン放送交響楽団によるもの、クーベリクは生き生きした両翼型音楽を披露している。
ステレオ録音は、左右に高音域と低音域の振り分けという路線が主流である。両者の折衷型も、工夫としてありえるけれど、クレンペラーのスタイル、クーベリックの晩年の音楽などは、作曲者主体で豊穣のステレオ録音レコードとして、貴重といえるのである。