千曲万来余話その151「ア・スプレンディド・指揮者、ピエール・モントゥー」

P・モントゥーは、ストラヴィンスキーのバレエ音楽、春の祭典やラヴェルのダフニスとクロエを初演した指揮者として知られている。その時の逸話として有名なことは、演奏後のブウイングである。怒号とトマトが飛び交ったというもので、真偽のほど、さだかではない。それは、多分、作品に対する聴衆の戸惑いの反応であって、演奏に対するものではなかったであろう。
彼の指揮ぶりは、映像で確認される。シカゴ交響楽団を指揮したものは、簡潔明瞭で、その上に高潔な紳士然としていて、好感が持てるものである。コントラバスが指揮者の左手側配置であるのは意外であった。ステレオ録音のほとんどは、右スピーカーから聞こえるものであったからである。強く記憶されている。
1875年4月4日パリ生まれで、1964年7月1日、米メイン州ハンコックで長寿を全う。彼の残した演奏レコードは、どれもが印象に残るものである。立派な指揮者の一人。
とりわけ、先に述べた春の祭典で、デッカステレオ録音、パリ音楽院管弦楽団と、フィリップス録音、ラヴェルのボレロで、ロンドン交響楽団とのものなど、同曲の稀少なヴァイオリン両翼配置録音で特筆しておきたい。
両翼配置という言葉の使用については、それを経験していない相手が大多数であり、気を使わなければならない。発したとたんブログを閉じるフォロワアがいるかもしれないが、たとえば、ボレロでヴァイオリンのピッツィカートを、右スピーカーから体感したときなど、思わずニコリとしてしまうこと受け合いである。多分、指揮者も確認している事実であろう。或る指揮者の音盤など何回も聞き込むとアラが見えてくる、モントゥーは味が出てくる、と口にしていた御仁がいた。同感、至極。
リムスキー・コルサコフ作曲した交響組曲シエラザード作品35、この音楽は色彩感豊かな管弦楽の饗宴を愉しむ名曲だ。モントゥーは、ロンドン交響楽団のものは、ステレオ録音はオーケストラの音響が明るく、なおかつ迫力がある。ヴァイオリンの独奏も素晴らしい。RCA録音の至宝として、その存在を特記しておこう。
アラビアン千夜一夜の極楽体験は、満月の夜にふさわしい。