千曲万来余話その298「室内楽の至芸、二本のリコーダー演奏」

トーマス・モーリー1557~1602は、平明で容易な実用音楽の紹介ということでリコーダー二重奏の音楽を作曲している。リコーダーという楽器は縦笛で、発音は容易であっても、その演奏には熟練を必要とされる。
独奏による演奏とともに、二重奏の音楽は、特別な楽しみを与えてくれる。
テレフンケンレコード、ヴィルティオウズ・カンマームズィーク室内楽の至芸、キース・ベッケとワルター・ファン・ホウヴェによるブロックフレーテ、1979年頃録音の演奏を聴いた。
盤友人は、よく倍音というキーワードを発信している。
ピアノのひとつの音で言うと、ラ、440ヘルツの音には、880、1320、・・・という整数倍の音が含まれている。それをハーモニックス、倍音といって豊かな音響を構成している。二本のリコーダーの吹奏では、同じ音程の時とか、完全五度といって、ドとソの時、ほかに、完全四度ドとファを和音で聴くとき、もう一つの音が鳴っている。これを倍音が鳴る、と云う。和音ハーモニーの魅力といえる。ちょうど左右のスピーカーで、中央に定位する音像がイメージされるのと、同じ感覚なのであろうか?いずれにしろ、倍音再生は音楽の醍醐味、オーディオの愉悦の一種である。
トーマス・モーリー作曲による、ソプラノとアルトリコーダーの二重奏六曲を再生して、その倍音が鳴る演奏に、今年、平成28年のオーディオ集大成を実感した。
最初、左スピーカーからアルト、そして右スピーカーからソプラノリコーターが定位する。それはもう、感動が約束されている。ラ゛=440ビッチ、1979年製、フレデリク・モルガン、オーストラリアのモデルというクレジットがなされている。
それは、左チャンネルが高音、右チャンネルが低音という従来のステレオ感の前提と、明白に異なっている。すなわち、下手、低音、上手、高音という配置である。これは極めて重要な要因である。それは、1955年以来のオーケストラ配置、ヴァイオリンとコントラバスの対比によるステレオ配置と決定的に相違する事実である。今まで主流となっている配置が、現在、ヨーロッパで主流となっているコントラバスの下手配置、舞台の向かって左側に配置される音楽の正統性を示している。 だから、アルファベットが左から右へと綴られるがごとく、ベートーヴェン作曲の第九交響曲、歓びの歌が、下手コントラバスから演奏開始される事実を大切にする音楽を、最近の、ヴァイオリン両翼配置は実現している。
キース・ベッケや、ワルター・ファン・ホウヴェの名技性には、その圧倒的なテクニックに脱帽する。充分に堪能するこのLPレコード、盤友人としては、今年一番の珠玉音盤としてその巡り合わせに感謝する。ほかに、ゲオルク・フィリップ・テレマン1681~1730の二重奏ソナタ、ヤーコブ・ヤン・ファン・エイク1590~1657、ソプラノ・ブロックフレーテと横笛フルートトラヴェルソのためのアマリリ麗し、ジャック・マルティン・ホテッテーレum1684~1762アルト・ブロックフレーテ二重奏、ビゼー、パリ1740年コピー、1976年メルボルン製モデル標準ラ`=392ヘルツ