千曲万来余話その314「ショパン、ピアノ協奏曲2番ツィンマーマンによる弾き振り二役」

ピアノ協奏曲第一番よりも先に作曲されけれど、出版上の都合で第二番作品21とされたこの曲は、1830年3月17日にワルシャワで初演されている。
第二楽章ラルゲット、幅広く歌うようにより、やや早くでの音楽は、珠を転がすような旋律線のラインがきわめて印象的で、独奏者は、ここでのピアニズムで、表現のグレード、格が決まるともいえる。クリスティアン・ツィンマーマン1956年12月5日、ポーランドのサブジェに生まれた。
1975年国際ショパンコンクールに優勝した経歴を有する名ピアニスト。指揮者としては、キリル・コンドラシン、カルロ・ゼッキに強い影響を受けているという。ここでは、ピアノの独奏とともに、ポーランド祝祭管弦楽団を指揮をとっている。1999年8月、トリノで録音。
曲の前奏が開始されるや、弦楽器の表情に克明な強弱ダイナミズムとして、表情が施されていることにはいきなり、ワクワクさせられてしまう。そう滅多に経験しない音楽である。すでに、ピアニストでもある指揮者が入念な稽古をこなしている証明であって、他の凡百ある演奏とは一線を画していることを伝えてくれる。本腰を入れたショパン演奏だ。
デジタル録音でも優れていて、ピアノの音響が鮮明に録音されていてその上、弦楽でのコントラバスの低音旋律が力強く、再生される。これには、指揮者の聞いている音楽が伝わってくる。
ピアノが雄弁であり、オーケストラも充分な表情を見せている。LPレコードジャケット、裏の全員写真を、注意深く眺めてみると、第一ヴァイオリンの奥には、ヴィオラ=アルトが着席しているのがわかる。つまり、舞台上手袖には、第二ヴァイオリンがセットされていて、ツィンマーマンの確固とした意志を感じさせる。これは秀逸な写真であって、多数のジャケット写真とは、手配された意味が異なっている。それは、ヴァイオリン両翼配置への意志表明である。
レコードを聴いても、開始してすぐに、ヴァイオリンの響きが、左右スピーカーに展開する様子が感じられて、愉快になる。これは、作曲者の時代にさかのぼった弦楽器の配置で、左側スピーカーだけで、表現される音楽とは、截然と異なる音楽になっている。演奏効果が違う。演奏者のみならず、客席に居る作曲者へのリスペクトがあることを意味してい。すなわち、1960年代主流となったステレオ録音とは、意味が違うのである。これは、特筆されるべき音楽である。
ショパンの作曲については、その管弦楽法の弱点が指摘されがちだが、こうして聞いてみると、何の遜色もないことがわかる。ただ単に、ヴァイオリンを指揮者左手側にまとめられることによる、低いハードルの与える印象によるのであって、左右舞台袖に展開する演奏上の困難性は、それを克服することにより、緊張感は高められて、音楽的には納得のいく、独特の世界を印象付けてくれることになる。そこのところ、ツィンマーマンは表現していて、このレコードを再生する愛好家は、そこのところ、共感を表明するのが、礼儀というものであろう。
実に懐の深い、演奏のスタンダードということに、敬意を表して、このレコードを紹介しよう。