千曲万来余話その578~「フランクVnソナタ、名演奏家たちによる一期一会・・・ 」

 2020年暮れ訃報が届いた。イヴリ・ギトリス1922.8/22イスラエル・ハイファ生まれが24日パリの自宅で逝去、98歳。現代最高の演奏家の一人といわれていた。親日家としても有名、とくに、東日本大震災の折には被災地に出向いて演奏活動を捧げていた。13歳でパリ音楽院に最上成績で入学、ジャック・ティボー、カール・フレッシュ、ジョルジュ・エネスコという指導者に恵まれ1951年にはロン・ティボー・コンクールで入賞、その結果には聴衆たちが騒動に発展したらしい。パリ・デビューにつながったと言われている。
 幾度となる来日公演で、盤友人は10年余り前、キタラホールで聴いてそのエネルギッシュな演奏に感銘を覚えたものである。リサイタルがはねてから、LPレコードのジャケットにサインを頂いた。ミーハーなのだけれど、シベリウスの協奏曲でジャケット顔写真が2~30代の若いものだったので、いたく喜び、ピアニストのヴァハールを呼んでともに笑いあっていたのが懐かしい思い出。知人のVn演奏家NF氏などは、終演の際に舞台へかけより、ワインを贈っていたものだった。NF氏は滅多なことではなくて格別の思いを届けたかったと言っていた。
 ギトリスの演奏スタイルは、即興性の尊重につきるのではなかろうか?インテンポで停滞気味の演奏をことのほか嫌う。1976年コピーライトの、フランク作曲ヴァイオリン奏鳴曲イ長調ピアニストはマルタ・アルヘリッチ、鬼才ギトリスの神技というタスキが言い得て妙である。50代前半のこの録音は、脂の乗り切った円熟の境地の記録になっている。
 ピアニスト・アルヘリッチは1965年ショパン国際コンクールのグランプリでその前回の覇者はマウリツィオ・ポリーニだった。彼女は1970年初来日、1月札幌市民会館にてプロコフィエフ、第3番ピアノ協奏曲を指揮ペーター・シュヴァルツ札幌交響楽団第91回定期公演で共演している。その音源はCD化されている。当時、盤友人はFM放送でショパンの第3番ソナタを耳にして、圧倒的、情熱的、即興性の勝った演奏に深く心に刻まれたものである。困ったことなのではあるのだが、その後、シューマン子どもの情景など、クララ・ハスキルなどの録音を聴いた後では、その即興性に対して、疑問を覚えていたのである。だから、今回のフランクのVnソナタで、さもありなん、冒頭の和音からして、盤友人としては違和感がある。没入、没我、感情移入過多、ロマン派の溺できたる表現に抵抗感がある。ただし、それが彼女の真骨頂(ご主人が、3から5人いる!)というまでである。つい最近のドキュメンタリーでは、父親が3人とも異なる娘たちと談笑するアルヘリッチには脱帽した。そのときのパートナーは、ピアニスト・スティーヴン・ビショップ・コヴセヴィチ。彼女は破格の人生を謳歌している。ステキな天才ピアニスト、われわれは、彼女の演奏をそのように受け入れれば仕合わせということだ。
 仮想アースというグレードアップの次に、音蔵社長KT氏はコントロールアンプの初段管ECC32を提供してきた。ムラード社製ブラックプレートという古いタイプ、それなりの線材がヴィンテージものだから、再生される音のニュアンスが絶妙になる。たとえば、ギトリスの演奏の狙いは、ヴァイオリンという楽器の音を限りなく、人の声に近づける懸命の演奏ということが分かる。第3楽章レチタティーヴォ、ファンタジア、叙唱風で幻想的な、という音楽は正に一所懸命な響きの歌に近づいている。切れのある音色が浮き彫りになる時、この音楽の真価は、フランクがユジーヌ・イザーイというヴァイオリニストの1886.9/28、結婚を祝して作曲献呈された由縁が明かされるだろう。オーディオのグレードアップは、それこそ、音楽の真骨頂に迫る力を与える…