千曲万来余話その581~「L・V・B「運命」ロジンスキー指揮する最初期ステレオ録音・・・」

 ステレオ録音で最初期にはフリッツ・ライナー指揮シカゴ交響楽団のR・シュトラウス作曲「ツァラトゥストラはかく語りき」1954.3/8RCA録音が挙げられる。ベートーヴェンでハ短調交響曲「運命」はシャルル・ミュンシュ指揮、ボストン交響楽団。1955.5/2RCA録音。ミュンシュ指揮する運命を盤友人は未確認、ロジンスキー指揮するフィルハーモニック管弦楽団オブ・ロンドンという1956.9/28~30ウエストミンスター録音を聴く。このフィルハーモニックオーケストラオブロンドンという名称は1946年創立されたロイヤル・フィルといわれている。フィルハーモニア・オーケストラ・オブ・ロンドンとは類似しているが別団体で、1955年クレンペラー指揮するフィルハーモニア管弦楽団のEMIモノラル録音による「運命」と比較すると弦楽アンサンブルや管楽合奏、ティンパニーなど音響から受ける印象は明確に異なる。ただし首席ホルン奏者は同一の高い確率で、デニス・ブレイン。
 アルトゥール・ロジンスキー1892.1/1クロアチア・スピルト生まれ~1958.11/27米国没ウィーン大学で法学博士号を取得しフランツ・シャルクに指揮法を師事している。1920年代から活動開始、ストコフスキーに認められ26年からフィラデルフィア管弦楽団の指揮アシスタントを務めた。29年ロスアンジェルス・フィルの音楽監督就任、33年から43年までクリーブランド管弦楽団の首席指揮者を歴任43年からニューヨーク・フィルハーモニック首席指揮者で、47年に辞任している。47/48年シカゴ交響楽団音楽監督で終生にわたり、その客演指揮の立場にあった。一切妥協を許さない姿勢は伝説化している。
 ステレオ録音でその初期は、左右が高音と低音の分離型という認識を発信し続けていた。この録音を再生すると、第2Vnは右スピーカーに定位するヴァイオリン両翼配置である。ちなみに、ライナー指揮するツァラトゥストラの新旧ステレオ録音の二種類で、最初はダブルウイング配置録音になる。後期はVnの第1と第2は左スピーカーに束ねられることになる。
 盤友人にとって、ロジンスキーの「運命」ステレオ録音は福音であり、左スピーカーに定位するコントラバス、チェロ、第1Vnの音楽で、低音域からVnまで音響が「密」になることは非常に心地よい結果をもたらしている。第2楽章のコントラバス・チェロ・アルト、Vnという旋律の受け渡しは左右二つのスピーカーの一対の中で、つむじ風の様に左右の展開する音楽が、いかに、作曲者の意図を表現するか、効果てきめんである。すなわち、左側にVnそして右側にアルト・チェロ・コントラバスという高低のグラデーション階層配列は、モノラル録音のポリシーと云えるのだろう。さらに言うと、指揮者右手側にチェロ、アルト外側配置はコントラバスを土台の感覚で云うならば、横綱の右手側がトップになる雲竜型の土俵入り、第1と第2Vnを両手に見立てると左右に「かいな」を開いた不知火型土俵入りのイメージである。さらに言うと、左側高音と右側低音の和音ハーモニー外声部、中央に内声部がサンドウィッチされる音楽より、左右に外声部と内声部を配置した方がステレオ効果はより楽しいものになる。これは一重に、指揮者と演奏者がいかに聞こえるかを考えた時、重要な鍵となるのだろう。
 ロジンスキー指揮する「運命」の第1楽章は明らかに第一楽章502小節に基いているのだが、389小節目の全休止処理、短めである。クレンペラーが指揮すると、悠然と全休止は一小節充分なのだが、ロジンスキーは詰めている。その不自然さに気を付けているのだと思われる。作曲者の全休止記譜は57小節目、123と124小節目の2小節分あったりするのだが、389小節目は音楽として不自然であり、501小節こそ作曲の完全性発揮だ。最後の決め手は、426小節目から音楽は流れ出すのであり、427小節目から流れるブライトコップ社版楽譜などによる演奏は作曲者の意図に従わない結果であり、一小節ずれる。ベートーヴェンの偉業に口ふさぐという卑劣な仕打ちなのだろう。指揮者やオーケストラ演奏家はこの二者択一という現実で、固定観念から脱却する必要があり、楽譜の検証と拠って立つ音楽の感覚こそ必要、禁忌タブーなひと言は「楽譜に書いてある」だ。
 オーディオによるレコード再生する意義は、ここにある・・・・・