千曲万来余話その583~「ラヴェル曲ダフニスとクロエ、モントゥー指揮という理想・・・」

 パリでロシアバレエ団リュッスに対してセルゲイ・ディアギレフ1872~1929はモーリス・ラヴェル1875~1937にバレエ音楽「ダフニスとクロエ」を作曲依頼1912年6月、シャトレエ座で初演されている。ダフニス役ニジンスキー、クロエはカルサヴィナ、指揮者はピエール・モントゥー37歳だった。
 約3世紀頃のギリシャ詩人ロンゴスの小説を題材に、それを台本に振付師ミハエル・フォーキン1880~1942が自由に構想をまとめたもの。古代ギリシャを舞台、羊飼いダフニスと乙女クロエとが恋のライヴァルと競い合ったり海賊と戦ったり、牧羊神パンの助けを得て最後にはめでたく結ばれる。ロマンティック、官能的、色彩ゆたかで緻密、完成度の高い大編成管弦楽というラヴェルの音楽は、演奏時間50分ほどのもの。第1組曲とか第3場のものを第2組曲の管弦楽曲になど編成し直されている。全曲版は歌詞の無いヴォカリーズ母音唱法が付けられたり、大規模。盤友人は1995年5月全曲演奏舞台の合唱団員として参加し当時楽団事務局長は札幌市民会館演奏の中で最大の音量を記録したと感想を語られていた。
 ピエール・モントゥー指揮ロンドン交響楽団、コベントガーデンロイヤルオペラハウス合唱団は1959年4月全曲版デッカ録音をリリース。不滅のステレオ録音といわれている。なんといっても、モントゥーの指揮は、演奏者の士気が高く、高潔な解釈で演奏されていて、力量、演奏能力の名技性を遺憾なく記録しているところに価値がある。40年余り以前の初演指揮者が、歴史の記録を数々書き換えていき、豊富な経験の発露の記録は、圧倒的で追随を許すところは無い。管弦楽の色彩感、高揚感、完成度のどれをとっても最高峰の記録なのである。
 モントゥーのステレオ録音レコードで、貴重な所以は、第2 Vnの分離された記録、すなわち、多数のステレオ録音とは異なる、ダブルウイング両翼配置の演奏という完成度である。1960年70年代とステレオ録音の多数は左スピーカーで束ねられたヴァイオリン演奏を聞かされるのだが、右スピーカーから聞こえる第2ヴァイオリンの演奏は説得力が異なる。モントゥーのステレオ録音はその大半がコントラバス指揮者右手側配置というもので、映像の記録によるとモノクロ作品でもウイレム・メンゲルベルク1871生~1951没、指揮などはこのモントゥー録音型の配置である。なぜ、戦後広く流行したステレオ録音、第1、第2ヴァイオリンを並べたものが多数派なのか考えるに、演奏リスクの容易化だろう。両翼配置は合奏するのにリスクが高く、現代的なリハーサル効率の面を考慮するには、両翼配置は敬遠されたのだろう。ところが、最近の演奏会は、両翼配置採用が多数見受けられるように経過している、すなわち時代である。第1と第2を対向させる配置こそ新しい音楽シーンであり、それは、すでに60年前のステレオ録音に存在した歴史的事実である。
 音というものは、聴こえれば良くて、どのように聞こえるかは問題にしない立場、それは、モノラル録音の世界である。ステレオ録音では定位ローカリゼイションとして、左右と中央に楽器の位置感覚は設定される。弦楽四重奏で、チェロとアルトが舞台上手で下手にヴァイオリンというのは、低音の方から高音の方へと一直線にするとしたら、客席にいる聞き手の対面で横並び、その中央にチェロとアルトを舞台前列にヴァイオリン両翼にして初めて舞台正面から客席へと音楽は向かうのだろう。
 21世紀という新しい時代、すでに21年経過して、モントゥー指揮録音をステレオ再生できる喜びこそニース゛といえる。コントラバスとチェロの前に第1Vn、アルトと第2ヴァイオリンを指揮者右手側に配置してこそ作曲者イメージする音楽演奏の実現だろう。コントラバスが指揮者左手側配置だとホルンは自然、指揮者右手側に座席してホルン奏者も演奏しやすいことだろうと推察される・・・