千曲万来余話その695「レハール、金と銀をケンペ指揮のLPきき比べる愉しみ・・・」。

 水芭蕉というと白い花を連想されるかもしれないが、あれは花を包む葉であり花はその中にある。見た目から花を想うのは容易でラジオから、今日の花はミズバショウでとか説明を聞いて、ハハアなるほどと判る話、花言葉は変わらぬ美しさ、尾瀬の代名詞も見頃は五月下旬だそうである。今日は憲法記念日でだから、そのことに思いをいたすことは必要かもしれない。歴史を知ることはふるきをあたためて新しきを知る温故知新、極めて大事だろう。
 F・レハールは依頼を受けて管弦楽曲のワルツを作曲している。「金と銀」金貨と銀貨とこうくれば下世話の話になるから、でも、1870.4/30コマーロム生れ(ハンガリー西北部ドナウ川に面している北緯47度、ちなみに札幌は43度で清田区役所は42゜59”)のフランツ・レハールはウィーンでオペレッタ喜歌劇「ウィーン夫人たち」で大当たりを取り作曲に専念するようになる。1905年末に「メリーウイドー」で空前の成功を収める。ニューヨークやロンドンでもロングランのヒットを飛ばす。営業収入といえば、ベートーヴェンなどは鳴かず飛ばずの成績しかなくてそれからみると、けた違い。独立したワルツの曲も色々な楽想のワルツの接続曲みたいな感じ、ウィーン風の味付けで流麗この上ない。この街の古き良き時代で、会議は踊る、この言葉の含蓄に深いものがある。ドレスの女性の腰に手を回して左手を掲げて彼女をくるっとまわすと、その心境を愉しむのがワルツ円舞曲、大広間で踊りあかすのは貴族階級の特権だったことだろう。
 ルドルフ・ケンペ指揮するドレスデン・シュターツカペレで30年前完全限定プレス、売価税込みで2800円の日本コロンビア盤、バブルが弾けたころ為替レートはいかばかりだったことか。1ドル142円というのは現在の円安時代、1995年は80円を切り実質60円だったと。貨幣価値はおおよそ2倍くらいと考えられる。1973年1月のガラコンサートといってもドレスデン、ルカ教会録音。発売当時、評論家は絶賛した最高の録音という。アナログ録音後期のデンオン・マスター・ソニック・シリーズの1枚。ルカ教会での録音風景写真を見るとバンダやハープは、しも手でコントラバスやティンパニー、ホルンは上手で中央には木管楽器というものである。
 ザクセン・シュターツカペレ、ドレスデンはザクセン州立歌劇場に所属する。創立は1584年にまでさかのぼり、宮廷楽団が前身でこの歴史は1554年にオランダ人の7人楽士が合流した1548年選帝侯モーリツが創設させた聖歌隊。初代楽長にヨハネス・ワルターというマルティン・ルターの友人が任命されている。これは日本でいうと安土桃山時代に相当する。思えば日本列島は戦国時代といって、戦争の、といってもミサイルではなく槍や刀での戦さの時代だから、今、平和の時代も地球規模でいうと戦争が続いている時代なのだろう。
 世界最古の管弦楽団で1667年には最初のオペラハウス、宮廷楽団は1593年頃に基礎を築いた歴史がある。1822年にはウエーバーの歌劇「魔弾の射手」初演、1842年にはワーグナーの「リエンツィ」初演1845年「タンホイザー」などオペラの時代、1905年「サロメ」09年「エレクトラ」11年「ばらの騎士」というリヒャルト・シュトラウスの作曲した楽劇が初演されている。
 ルドルフ・ケンペは1949~53?年に音楽監督という経歴があり、1910年6/14ドレスデン郊外ニーダーポイリツ生まれ、12歳頃ドレスデン・オペラで「魔笛」を鑑賞して一生の巡り合いがあったという。指揮者ケンペ尾埜善司評伝によるとフリッツ・ブッシュが代表を務めていたD・Skのオーケストラ学校がある商業高等学校に入学していたのは1924年のことで商業高校に入りながらも上階のオーケストラ学校にも合格して成り手不足のオーボエ奏者の勉強を始めたということだ。こうした歴史にドレスデンとの関係が築かれて、後にロイヤル・フィルハーモニックやミュンヘン・フィルハーモニカーなどの音楽監督を歴任している。ドレスデンでの指揮活動も、ロイヤル・フィルやミュンヘン・フィルではヴァイオリン・両翼配置で録音しているもミュンヘンでのベートーヴェンチクルス、ドレスデンでのRシュトラウス管弦楽作品集EMI録音では、左側からヴァイオリン、右スピーカーからチェロやコントラバスが聞こえてくる。
 「金と銀」の演奏でも右側からコントラバスそしてアルトなどのワルツでいうと第1拍と後拍も聞こえる。左側ではヴァイオリンが艶やかな旋律線を聞かせている。ドレスデン歌劇場管弦楽団はいかにも指揮者に完璧に合わせていて接続する楽想で少し間をも聞かせるのだが、純正のピッチでもってワルツを自由自在のテンポ感覚で展開しているのは驚異。
 指揮者ケンペの1975年8月BBC放送での発言によると自分のレコードは余り聞かないで聴くのはレハール曲の「金と銀」1958年2月ウィーン・フィルハーモニーとの演奏、あれは実にいい、ただ一曲例外としている。正に、はつらつとしたワルツ演奏が記録されていて針を下した途端に愉悦感あふれる演奏というALPナンバー1673モノラル録音盤。ウィーン・フィルならではの典型、もしかしたら天の啓めき!というべきかもしれない。 「さがすべきではない、巡り合うべきである・・・それは作曲者とその音楽に対する献身の結果である」ルドルフ・ケンペ1976.5/11享年75歳チューリヒにて